【1月10日 AFP】520日間に及ぶ有人火星ミッションの模擬実験で、長期間の宇宙旅行を成功させるには睡眠パターンを適切に調節することが不可欠であることが分かったとする論文が、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)1月7・11日号に掲載された。

 論文の共著者の1人、米ペンシルベニア大学(University of Pennsylvania)のデービッド・ディンジス(David Dinges)氏は、「これは長期宇宙ミッションにおいて睡眠覚醒サイクルが非常に重要な役割を担うことを示した初めての調査だ」と述べている。

 長期宇宙飛行が心理面・健康面にもたらす影響を調べるこの模擬実験「マーズ500(Mars-500)」に志願したロシアからの3人、欧州からの2人、中国からの1人の計6人は2010年6月3日、ロシア国内に作られた550立方メートルの密閉施設に入った。

 仮想ミッションは3つの段階に分けられ、最初の250日間は火星に向けた宇宙飛行、次の30日間は火星の地表での活動、最後の240日間は地球への帰路を想定して行われた。

 期間中、睡眠不足や疲労、ストレス、気分の変化や個人間の衝突の影響を調べるため、睡眠、活動能力、密閉空間に対する心理的反応の測定など90以上の実験と、週に1度の問診が行われた。

 参加者の腕に装着した機器で体の動き監視した結果、ミッションが進むにつれて運動量が減ることが分かった。また、参加者の大半は睡眠の質や注意力の低下、または睡眠・覚醒の間隔やタイミングの変化を経験していた。

 研究チームは、宇宙船と火星地表で宇宙飛行士が生活する際には、光を浴びる時間や、食事や運動の時間帯を適切に調節するなどして、地球での睡眠と覚醒のサイクルを人工的に作り出す必要があると結論付けた。

■一般の人にも重要な示唆

 また今回の発見は、一般の人々の間で増加する睡眠障害についての示唆ももたらしたという。ディンジス氏は報道向け発表で次のように述べている。

「この研究が発する1つのメッセージとして、健康的な睡眠の長さとタイミングは全ての人の生命維持にとって重要な役割を担っているという事実がある」

「社会が国際的になっている中、自分たちの健康や生産的な生活と睡眠の関係性について再評価する必要がある。他の惑星への宇宙旅行に挑戦する宇宙飛行士であれ、やっと自分の足で歩き始めた赤ちゃんであれ、人間の体にとって睡眠は食べ物や水と同じく必要不可欠で、私たちが活発に活動するためには欠かせないものだ」

(c)AFP