【9月18日 MODE PRESS】言うまでもなく、私たちは未知数の色に囲まれて生活していますが、それらの色彩は日々さまざまな心理的効果をもたらしてくれます。たとえば、赤は情熱を誘うとか、ピンクはロマンチックな気持ちにさせるとか、グリーンは集中力を高めるとか……。色彩や心理学に全く興味がない人だって、そんな話を多少なりとも聞いたことがあるでしょう。

-色彩の心理的効果

 そんな色彩の持つマジックは、飲食店においても巧みに取り入れられています。たいていの店には基調となるコンセプトカラーが存在し、その色調や明度や彩度に応じて、爽やかさや快活さ、あるいは色気といった、店の「イメージ」や「個性」が形成されています。そして、色彩のインパクトが強ければ強いほど、ゲストはドキドキさせられるような高揚感に誘われるのです。

 ここでご紹介したいのが、神楽坂にある西洋料理店、『夏目亭(Natsumetei)』です。同店のエントランスの扉を開けた途端に飛び込んでくるのは、壁全面を彩っている目が覚めるようなターコイズブルー。その色調はテーブルクロスの白と鮮烈なコントラストを成し、凛としたモダンな雰囲気を醸し出しています。しかし、席に落ち着くと、厨房の活気や、照明の温かさ、アンティーク家具のぬくもりが次第に伝わってきて、ブルーが放つ緊張感が程よく解きほぐされていくのです。色彩がもたらす、心地よい緊張と弛緩の妙――こうした半ば確信犯的な演出は、店側の強い信念やメッセージ性も秘めていて、その斬新な体験は訪れる人々の心に静かに、刻まれます。

 ならば、店を訪れる我々だって「色」を意識的に利用してみませんか?

 いくら舞台の小道具や装飾が素晴らしい色彩バランスを保っていても、役者の衣装がそぐわなければ、完成された作品にはなりません。レストランは、言わば「舞台」。登場する我々が何を着て、どんな色彩を放つかによって、店全体が醸し出し空気が決まります。

-いざ!実践

 では早速、レストランで色彩を操る簡単なテクニックをご紹介しましょう。すぐに実践しやすいのが“同系色の法則”。まず、これから訪問する店の基調となる色を考えてみてください。初めて行くお店でも大丈夫。便利な世の中になったもので、レストランのウェブサイトまたはGoogle画像検索を活用すれば、たいていの店の内観は事前にチェックすることができます。パソコンの画面からコンセプトカラーを視覚的に捉えたら、それと同系色のアイテムを、こっそり取り入れれば良いのです。

-色が占める割合と法則

 ここで気を付けたいのは、その色の占有面積をあまり大きくしないこと。『夏目亭』だったら、ターコイズのピアスをつけてみたり、ブルーのスカーフをベルト替わりに使ったり、そんなちょっとしたパーツでよいのです。『銀座レカン(Lecrin)』のようなワインレッドを基調としたレストランに訪れるときに、ボルドーカラーのワンピースを身に着けたとしたら、その色選びは周りに“いかにも!”という印象を与えてしまうかもしれません。それよりは、ルビーのペンダントをさりげなく胸元で光らせるほうが、店全体が醸し出す雰囲気に自然に溶け込んでゆくことができるのです。

 そしてもう一つお伝えしたいのが、真逆の発想から生まれた“反対色の法則”です。これは、お店のコンセプトカラーの反対色(捕色)を意識的に取り入れるという、ちょっと上級者向けのテクニック。 ここで言う“反対色”または“捕色”とは、(むかしむかし、美術の時間に習った)「色相環」の対面にいる色のこと。ざっくり言えば赤と緑、橙と青、黄と紫の関係がこれにあたります。優しいパープルのファブリックで統一されたレストラン『アルシミスト(restaurant l'Alchimiste)』で、鮮やかな黄色のカットソーを身に着けた自分を想像してみてください。アザミの花々の中で際立つヒマワリのように、エネルギッシュなオーラーを放っているはずです。

-ファッショナブルにレストランを楽しもう

 レストランに足を運ぶとき、自分がどんな役を演じたいかを想像することが、色遊びの第一歩。周りに優しく馴染むべきか、ゆるぎない個性を確立するべきか――。今宵はどんな舞台になるのかを想像しながら、ストーリー設定に合った衣装選びをするように心がけてみましょう。

 「東京ファッショナブルレストラン」と題したこの連載は、ファッショナブルなお店の紹介というよりも、レストランをいかにファッション目線で楽しむことができるか、ということを追求した講義です。せっかく用意された晴れ舞台ですから、オシャレもきちんと愉しみながら、素敵なレストランシーンを演出してみませんか。【瀬川あずさ】

プロフィール:
聖心女子大学卒業後、施工会社の秘書を務め、飲食店の企画、設計、施工業務に携わりながら、レストラン巡りに没頭する。その後趣味が高じて、フードアナリストならびにワインエキスパート資格を取得。現在は、記者・ライター業、ワインスクール講師、飲食店メニュー開発などを務め、食を通じた豊かなライフスタイルを提案するべく活動中。
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