【12月22日 AFP】世界3位の経済大国の日本でマイクロファイナンス(貧困者を対象とした小口金融)が必要とされるとは、とても考えにくいだろう。だが、東日本大震災の被災地では、マイクロファイナンスが事業復興の鍵となりそうだ。

 証券会社「ミュージックセキュリティーズ(Music Securities)」は元来、ミュージシャンの音楽活動を財政面から支える小口投資事業を行ってきた。その経験を生かしてこのほど、被災地の小規模事業と、被災地に出資して支援したいと願う人たちをつなぐ「セキュリテ被災地応援ファンド」を立ち上げた。

 このファンドのモデルは、バングラデシュのムハマド・ユヌス(Muhammad Yunus)氏が貧困者を助ける目的で設立したグラミン銀行(Grameen Bank)だ。グラミン銀行は貧困層に低利率で小口の融資を行う金融機関で、信用力よりも潜在成長力を重視する点を特徴とする。

 働きながら生活する手段を得て個人の尊厳を取り戻すこの仕組みで、グラミン銀行と創業者のユヌス氏は2006年にノーベル平和賞を受賞している。

 一方、ミュージックセキュリティーズの被災地応援ファンドは、出資金と応援金をあわせて1口約1万円からの投資が可能だ。再建の支援先は、カフェから水産業、200年以上の歴史を持つしょうゆ醸造蔵まで多種多様だ。


■ 中小被災企業にも再建の機会を

 東日本大震災では、トヨタ自動車(Toyota Motor)などの大企業の部品メーカーや工場だけでなく、多くの家族経営企業も大きな被害を受けた。だが、大企業とは異なり、これらの小規模な企業は資金や融資を受ける信用力もないため、事業を再開できずにいる。

 津波で建物や工場、在庫から熟練技術を持つ従業員まで、全てを失ったうえに負債を抱えた被災地の中小企業は、銀行からの融資を受けることさえかなわない。だが、こうした企業も現実的な事業再建計画と技術があるならば、あとは工場の再建や冷蔵庫の購入、または温室設置用の資本さえあれば再建が可能なはずだ。

 ミュージックセキュリティーズの小松真実(Masami Komatsu)代表取締役は、被災地には優良小事業が多数ありながら、公共支援が不十分なうえ、既存の金融機関が介入しづらいと指摘。事業資金を切実に必要とする現地の会社を、寄付金の良さを生かした被災地応援ファンドで助けたいと話す。

 ミュージックセキュリティーズの被災地応援ファンドは、1口が出資金5000円と応援金5000円をあわせた1万円(手数料除く)。応援金は寄付金として返金されないが、支援した企業の売り上げに応じて配当がある。

 12月現在で被災地の28事業が総額9億円のファンドを募集中で、ファンド参加者は約1万3500人、集まった総額は4億5500万円を超えた。


■ ファンドで立ち上がった被災地事業者たち

 津波で畑だけでなく家族や自宅を失った仙台(Sendai)の瀬戸誠一(Seiichi Seto)さん(62)は、「何かをして、飯を食べていかなければ」と、ファンドの支援を受けて親戚や友人と3人で水耕栽培会社「さんいちファーム」を始めた。

 瀬戸さんは農協や金融機関から、個人には融資しないと言われたという。被災地では「安定した雇用と収入」が一番必要だと指摘する瀬戸さん。すでに首都圏の外食産業やレストランと収穫野菜の直送契約を取り付けた。瀬戸さんの水耕栽培事業は、4000万円の資金を募っている。

 津波で壊滅的な被害を受けた陸前高田(Rikuzentakata)市の磐井正篤(Seitoku Iwai)さんは、江戸時代から続く陶磁器・地酒店を営んでいた。だが、陶磁器や酒は生活必需品ではないため、いまは必要とされていないと考え、一時は廃業を決意した。

 しかし、震災から2か月ほどして以前の客から、また店をやってほしいと頼まれ、事業再開を決意。被災地ファンドに応募した。目標金額は1200万円だ。磐井さんは、いまでは店で扱う商品を「心の隙間を埋める」生活必需品と考えている。

 このほかにも、創業200年以上の歴史を持つしょうゆ醸造蔵、八木澤商店(Yagisawa Shouten)は1億円、3軒のいちご農家が立ち上げた山元いちご農園(Yamamoto Strawberry Farm)は育苗ハウス建設資金や販路拡大などで2100万円を、ファンドを通じて調達する。

 20年近くも経済低迷が続く日本で、新規事業が必ずしも成功するとは限らず、ファンドの出資者にはリスクが伴う。それでも被災地応援ファンドに出資した人々の目的は、資金援助に加え、支援する事業に関わる被災者が生活を再建していく過程を見守る感情的な支援の意味合いが大きい。

 被災地の水産企業2社に1口ずつ出資しているという58歳の東京の会社員は、東北地方と直接のつながりはない。だが、被災者のために何かせずにはいられない気持ちでいたところ、ファンドの存在を知り、復興の種となる援助方法に共感したという。この男性は「多くの人たちが被災地で、がれき撤去や食事配給などのボランティア活動をしている。そういった活動はできないが、被災地事業への出資なら自分もできる」と話した。

 ミュージックセキュリティーズは、ファンドの需要がある限り被災地支援ファンドを続けていく計画だ。(c)AFP/Hiroshi Hiyama