【1月17日 AFP】1990年代初頭に国有企業の民営化を急速に進めた旧共産圏諸国では失業率が急上昇し、死亡する男性が急増したとの報告が、15日発行の英医学専門誌「ランセット(Lancet)」に掲載された。国有事業の民営化を検討しているの中国やインドなどの国にとって厳しい教訓となりそうだ。

 まずこの研究では、「大規模な民営化」とは、巨大国有事業の少なくとも25%を2年以内に民営化した場合と定義した。

■急速な民営化でセーフティネット消滅、失業きっかけに酒量増える

 同報告によると、急速に民営化が進んだロシア、カザフスタン、ラトビア、リトアニア、エストニアでは1991-94年の期間に男性の死亡率が平均42%上昇した。同時期、これらの国の失業増加率は305%に達した。
 
 一方、1989年から2000年までの旧ソ連と旧共産圏の東欧諸国での労働年齢の男性の死亡率の調査では逆に、民営化により慎重だったり、社会的セーフティネットがより強固だったアルバニア、クロアチア、チェコ、ポーランド、スロベニアで、男性の死亡率は10%減少し、失業増加率はわずか2%にとどまっていた。

 調査チームは貿易自由化や価格自由化、所得の変化、健康に関する過去の傾向などの影響を取り除いて比較した。その結果、急速で大規模な民営化は一般的に、失業率の劇的な増加と15-59歳の男性の死亡率の急増につながることが明らかになった。死亡率急増の大部分は失業した男性が大量のアルコールを摂取することから説明できるとチームではみている。

 加えて、旧共産圏では雇用主の多くが被雇用者に対し、広範囲に及ぶ医療ケアや社会的ケアを提供していた。しかし、こうしたサービスは失業すると受けられなくなったり、民営化に伴い縮小・撤廃されたりした。一方、国有財産の売却を少しずつ段階的に進めた国では成人男性における影響は比較的少なかった。

■支援ネットワークの存在がショックを緩和

 しかし、大規模な民営化を断行しながら民営化のショックに耐えた国もあった。教会や労働組合などのグループによる支援ネットワークが機能していた場合で、人口の45%以上がそうした社会組織に所属していた国では、大規模な民営化によって死亡率が高まることはなかった。
  
 報告は「国民の健康への影響を考慮せずに進められる急進的なマクロ経済政策には強く警戒する必要がある」と警鐘を鳴らした。

 また「中国、インド、エジプトやその他いくつかの発展途上国や中所得国(イラクも含む)では、いろいろな形の急速な改革政策について議論されており、それらの国では巨大な国有産業の民営化が開始したばかりだが、共産主義からの移行から得られた教訓は心に留めておくべきだ」と指摘している。

 論文はオックスフォード大学(Oxford University)のデービッド・スタックラー(David Stuckler)氏、ケンブリッジ大学(University of Cambridge)の同ローレンス・キング(Lawrence King)氏の2人の社会学者と、ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical Medicine)の旧東側諸国の保健衛生の専門家、マーチン・マッキー(Martin McKee)氏が執筆した。(c)AFP