【11月28日 AFP】イラク社会の「部族」や「氏族」の概念を最初無視していた駐留米軍の兵士たちは、今ではその重要性を十分に認識している。部族・氏族との協調関係を築いたことで、治安が飛躍的に改善された地域もある。

 米軍幹部らは「反政府勢力の掃討にあたっては、まず地元の有力者たちとの同盟関係を築く」ことに重点が置かれるようになってきたと口を揃える。

 ある兵士は「2003年にイラクに来たころは皆、部族の影響力というものを理解していなかった。部族なんて原始的なものだと思っていた」と言う。

 部族との同盟は、2006年末にアンバル(Anbar)州で初めて結ばれた。部族長のAbdul Sattar Abu Reesha師が率いる兵士らと8か月間、合同作戦を展開した結果、イスラム原理主義を掲げる武装勢力の掃討に成功した。しかし、Abu Reesha氏はその後、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)が犯行声明を出した路上爆弾の爆破で死亡した。

■一定の方法はない部・氏族との関係作りの難しさ

 前年1月に「Tribal Engagement Officer(部族調整官)」に着任した第3歩兵師団のエリオット・プレス(Elliot Press)大佐は「イラクは部族社会であり、部族の構造や背景、複雑性を理解することで、多くの事柄が説明できるとともに状況を改善することもできる」と話す。部族調整官は、部族に関する調査や分析、各部隊長らに部族に関するアドバイスを与えることなどを任務とする。

 駐留米軍の専門家たちは、部族の分布を詳細に示した地図を作成し、司令官らに配布した。現場の部隊は、部族長が誰かを特定して同盟関係を構築・維持することが奨励されている。ただし、系統だった指針や接近方法を指示できない難しさがある。

 ワシントン近東政策研究所(Washington Institute for Near-East Policy)で部族問題を研究するマイケル・アイゼンシュタット(Michael Eisenstadt)氏は、部族や氏族にいかに近づくのが最善かは族ごとに異なるため、そうした知識はイラク人と長期にわたり生活を共にしないと得られないという。

 バグダッドに駐留するリチャード・ウェルチ(Richard Welch)大佐は「部族の力が必要になる前から、あらかじめ関係を築いておく必要がある」と話す。「お茶を飲みながら何時間も世間話をすることで、初めてこちらの誠意を理解してもらうことができる。個人的な信頼関係が築けるかどうかだ」

 部族長の仲介で達成できたことは多い。地元のスンニ派反政府勢力との数々の停戦合意、人質の解放、アルカイダや武装勢力を掃討するために「契約治安要員」として民兵組織を雇用するといった成果が挙がっているという。(c)AFP