【8月29日 AFP】オーストリア・チロル(Tirol)地方のアルプスの山小屋で出迎えてくれたのは、若くてかわいらしいアジア人の女性だった。ネパール風に両手を合わせ「いらっしゃいませ」とお辞儀をし、にっこりと微笑む。

 チロル地方の山小屋には、30人のシェルパが夏の期間だけ働いている。西洋風のロッジ運営を学ぶのが目的だ。

 このシェルパ対象の研修プログラムが始めたのは、1978年のこと。オーストリア初のエベレスト(Mount Everest)遠征隊に参加したウォルフガング・ナイアツ(Wolfgang Nairz)さんが開始した。ネパールを何度も旅行してすばらしい経験をたくさんさせてもらったので、「その恩返しがしたかった」のだという。

 研修生は西洋の登山客との接し方、物資の調達の仕方、崩れた山道の修復の仕方、アルプスの郷土料理の作り方などを学ぶ。今年で5回目を迎えるプログラムはこれまでに30人を受け入れ、大きな成果を挙げている。

 毎年200人以上の応募があり、ネパール山岳協会(Nepal Mountaineering Association)と山小屋のオーナーたちの協力のもと、選考が行われる。応募要件は、登山ガイド、ロッジ従業員、ロッジ経営者など、登山ビジネスに携わった経験があることだ。

 先ほど笑顔で出迎えてくれたニマさん(28)は、6月中旬から山小屋で働いている。今や、オーストリアのパンケーキ、カイザーシュマルン作りの名人だ。故郷ではロッジのオーナーだが、ネパールでは雨期の間、ロッジが閉鎖される。そのため夫と3人の子どもを残し、3か月半の予定でここにやって来た。最初はドイツ語が話せず英語もたどたどしかったが、今ではチロル方言にも慣れたと言う。

■研修で得られる莫大なお金

 シェルパがこのプログラムに参加する動機は、もっと基本的なところにある場合が多い。ネパールを旅行する機会が多いというある山小屋の女性オーナーは、「お金の問題が大きいでしょう。家計を支えるために稼がなければいけないんです」と話す。

 研修生を受け入れるオーナーは、旅費を全額負担する。この女性オーナーは新しい衣服も支給したが、研修生は新品のまま持ち帰りたいために着たがらないという。ニマさんは、子どもを学校にやるために苦心している。「ネパールではちょっぴりしか稼げないけど、ここでは大金を稼げる」のだそうだ。

 先のナイアツさんは、「彼らにとって、(研修は)くじに当たったようなもんです。3、4か月後には5000ユーロ(約80万円)を持って帰れます。これは45万から50万ルピーに相当します。ネパールの教師の月給は1万ルピー、医師でも1万5000ルピーですよ」と話した。(c)AFP/Sim Sim Wissgott