【7月23日 AFP】ナチス(Nazis)・ドイツによるユダヤ人大虐殺(ホロコースト)を生き残った世代は今や晩年にさしかかっている。その多くが、封じ込めたはずの過去の恐ろしい記憶にさいなまれている。そうした人々の心のケアも行き届いていない。

 マンフレッド・ヨアヒム(Manfred Joachim)さん(83)は、義姉が死の直前に書いた詩を肌身離さず持っている。義姉は対ナチス・レジスタンス活動に関与したとして逮捕され、1943年3月4日、ベルリン(Berlin)のプレッツェンゼー(Ploetzensee)刑務所で絞首刑となった。「読むたびに涙があふれてきます。でも、ナチス時代はわたしにとって閉じられた一章なのです」とマンフレッドさん。 

 国家反逆罪で収容所に入れられたマンフレッドさんは、ホロコーストの犠牲者らと同じ気持ちを味わった。そして彼らは、人生のたそがれに直面し、よみがえってくる「あの頃の記憶」と対峙している。

 なかでも、ニュルンベルク法(Nuremberg Laws)のもと、ユダヤ人の血が混じっているという理由で「ユダヤ人」に分類されて迫害を受けた非ユダヤ教徒の人々は、ユダヤ人社会とも宗教団体ともつながりを持たず、そのため自分の居場所がなく心の支えがないと感じている。
 
 ホロコースト生存者の多くは、今や70代以上の高齢者だ。ベルリンのユダヤ人コミュニティでソーシャルワーカーとして彼らの心のケアにあたるエヴァ・ニッケル(Eva Nickel)さんは、長く忘れられてきた記憶が年齢とともに表出し、「昨日のできごと」のように思い出されるのは珍しいことではないと語る。

 フランクフルト(Frankfurt)の老人ホームで働くニルス・ナイダート(Nils Neidhart)さんは、ありふれた日常の動作においてさえ、(記憶を呼び覚ます)スイッチが入ってしまうことがあると話す。例えば、シャワーを浴びてくださいという一言で、ガス室を連想してしまい、激しい拒絶反応が返ってくることがあるという。

 その一方で、彼らの心のケアを担当する人員の不足が指摘されている。ケルン(Cologne)のFederal Association for Information and Counsel for Nazi Victims(ナチ犠牲者のための情報・助言連邦協会)に2007年まで勤めていたクリスティナ・ヒルゲンドルフ(Christina Hilgendorff)さんは、「ドイツ政府は彼らを歴史の目撃者として活用しておきながら、彼らのニーズには応えていない」と非難する。

 ホロコーストを生き延びた人々は、戦後、「迫害について口外しない」ことを条件にドイツ社会に再統合された。 

 その沈黙は今日まで続き、そのため犠牲者の家族がそうした過去に全く気づかなかったというケースもある。ある家族は、老人ホームに入った認知症の女性が過去のできごとをぽつりぽつりと語るようになって初めて、ナチスの収容所にいたことを知ったという。(c)AFP/Daniel Karl Jahn