【6月29日 AFP】パリ(Paris)で今季最も注目されるハプニングパーティーが26日に開催された。そのドレスコードは極めて厳格。白のオーバーオール、ゴム長靴、手袋、安全メガネ、防塵(ぼうじん)マスク、オレンジ色のヘルメットである。

 おっと、ハンマーも忘れてはいけない。これがなければ、市内の高級ホテル「ロワイヤル・モンソー(Le Royal Monceau)」4階で開かれる「解体パーティー(Demolition Party)」には参加できない。

 凱旋門(Arc de Triomphe)にほど近い全265室、五つ星のロワイヤル・モンソーは、1928年のオープン以来、世界中のセレブの間で人気を博してきた。改装を前に企画された今回のパーティーには1200人を優に超える参加者が集まった。

 現在のオーナーであるアレキサンドル・アラール(Alexandre Allard)氏(39)はIT関連の企業家だ。ホテルを15か月にわたり閉鎖して行う全面改装には、著名デザイナーのフィリップ・スタルク(Philippe Starck)氏(59)も参加。「狂騒の1920年代(Roaring Twenties)」の象徴とも言える外観を生かしつつ、新たに芸術性をたっぷり取り入れた究極のブティックホテルへと生まれ変わる。

■パーティーが始まる

 26日夕刻、パーティー客が続々と集まるなか、スタルク氏は「知性から生まれる新たなラグジュアリーを追求したい。知性はセクシーだ」と語った。

 一方、オーナーのアラール氏が思い描くのは「人びとの出会いの交差点となるホテル」。自身も18歳のとき、生まれて初めてのパワー・ブレックファストをモンソーで体験したという。

 解体パーティーの招待客は多種多様だ。米国のインディーズバンド「ゴシップ(Gossip)」、ベルギーのエレクトロパンクバンド「トゥー・メニー・ディージェイズ(2 Many DJs)」、フランスのラッパー、MCソラー(MC Solaar)など、多数のミュージシャンも姿を見せた。

 備品の大部分(ベッド、ナイフフォーク類、ミニバーなど)はすでに数日前に競売にかけられ、335万ユーロ(約5億6000万円)で落札されている。

 パーティー当日、1階の舞踏室はディスコと化していた。1990年にモンソーで撮影されたマドンナ(Madonna)の「ジャスティファイ・マイ・ラヴ(Justify My Love)のPVが繰り返し流れるなか、異性の服装をした人々が踊り明かす。

 階上では、国内外から招かれた十数人の現代アーティストが数部屋でパフォーマンスを披露。うち1部屋では中国の王度(Wang Du)氏がバスタブに、スイッチを入れた(小型ボート用の)船外機を取り付けていた。部屋は熱気に包まれていた。

 別室ではイラク系フィンランド人のアデル・アビディン(Adel Abidin)氏が、ホテル内で爆弾を爆発させた模様を撮影したビデオを上映していた。室内は米国人招待客の1人が「エイミー・ワインハウス(Amy Winehouse)の部屋みたい」と言うほどひどいありさまだった。

 ベルギーのバーレスク・ダンサーのカロリーヌ・ルメール(Caroline Lemaire)さんは黒のスリーインワンと真っ赤な10センチヒールに身をつつみ、壁ののぞき穴から注がれる当惑と含み笑いを伴った視線を知ってか知らずか、室内でくつろいでいた。高級ホテルにひそむいかがわしさを見事に体現したショーだった。

■一泊650ユーロの部屋を破壊

 だがさらに上階に行くと、先ほどまでの退廃的な雰囲気は一変。ひょろりとやせた体を安っぽい服につつんだ若者たちが大理石の階段に群がり、1泊650ユーロ(約10万9000円)の部屋の壁を破壊する順番を待っていた。

 1928年に建てられたモンソーだが、当時の建築技術は確かなものだったようだ。筆者も427号室と429号室の間の石膏でできた壁を破壊させてもらったが、こぶし大の穴を開けるだけで優に5分はかかってしまった。特に壁紙の丈夫さには驚かされた。

 こよいのパーティー参加者の土産品は、破壊したモンソーの壁のかけら。だが、なかにはヘルメットやハンマー、ホテルが競売に出品し忘れた純白のバスローブなどをこっそり持ち帰るつわものもいたようだ。

 解体パーティーを困惑の面持ちで眺めていたのは、お開き後に建物の本格的な解体作業を請け負う建設会社の作業員たちだ。ときおりパーティー参加者にハンマーの使い方を指導しながら、作業員の1人は「後始末をするのはおれたちだからね」と苦笑した。(c)AFP/Robert MacPherson


■ロワイヤル・モンソー「解体パーティー」公式サイト