【6月11日 AFP】オーストラリアのニューサウスウェールズ州立図書館(State Library of New South Wales)で、古い料理本を集めた展覧会が開催されている。展示されたさまざまな料理本から、開拓者たちが好んだ小型有袋類のバンディクート、カンガルー、コクチョウといった動物の調理方法が明らかになった。

 展覧会のキュレーターを務めるパット・ターナー(Pat Turner)氏によると、開拓者時代のオーストラリアで、人々が英国の食物をいかにアレンジして食していたかがよくわかる展覧会になっているという。
 
 例えば1895年初版の「The Antipodean Cookery Book(対蹠地に住む人のための料理本)、ランス・ローソン(Lance Rawson)著」は、「精選のうえ、きれいに洗った」オウム数羽などを使ったシチューのレシピを紹介する。

 1864年に書かれた豪州初の料理本と言われる作品は、「slippery bob」なるレシピを紹介。カンガルーの脳みそに小麦粉をまぶし、エミューの脂で揚げた珍品だ。

 著者のエドワード・アボット(Edward Abbott)氏はこの「カンガルーの脳みそ料理」について、豪州奥地でのみ食されるもので、食べるには「相当な食欲と丈夫な胃」が必要だと紹介している。

 アボット氏の著書はこのほかにも、小型有袋類のバンディクートやコクチョウのレシピも紹介。コクチョウのヒナドリの料理を「絶品」としている。

 これらの肉料理の豊富さについてターナー氏は「地元で手に入る材料、つまり生き物たちの、ありとあらゆる部位を用いてレシピを考えようという発想だろう」と推測する。

■料理本からわかる当時の世相

 展示作品からは当時の世相や「もてなし術」もかいま見ることができる。

 アボット氏の著書は理想的なディナーパーティーのヒントを紹介。「会話が通りいっぺんなものになるのを避けるため」招待客は12人以内にすること、と助言する。「女性はあまり媚びを売ることなく、愛想よく振る舞うべし」といったアドバイスもちりばめられる。

 先のローソン氏の著書も結婚を控えた女性の心得として「結婚式の前に婚約者に程よいコンロを買ってもらうこと。さもないと、死ぬまでたき火で料理をすることになります」と記している。

 ローソン氏の著書は、豪州大陸の先住民であるアボリジニ人の好んだいわゆる「ブッシュ・フード」を賛美している点でも新しい。例えば「柔らかくて白いガの幼虫は、カキと同じようなもの。げてものではありません」などと紹介する。国内で活躍する料理人の間では、アボリジニ料理の研究は始まったばかりだ。

 展示作品は英国料理に加えて、当時の英国人の嗜好を反映し、カレーのレシピもいくつか紹介している。ただ、インド以外の外国料理は一切載っていない。

 いわゆる外国料理のレシピ紹介で最も新しいのは1940年代に書かれた中華料理のもの。おそらく、19世紀後半のゴールドラッシュのころにオーストラリアを訪れた中国人労働者の影響だろう。
 
 女性キリスト教徒による禁酒同盟が1896年に発行した「The Temperance Cookery Book(禁酒者のための料理本)」は、アルコールを使わないレシピばかりを紹介する作品だ。

 1920-30年代に書かれたいくつかの作品は、肉食を減らし、地元産の農作物を多く摂取するよう推奨。政府の協力の下で発行されたある冊子は「パンこそ最高の食物、もっと食べましょう」と読者に訴え、国内の穀物生産拡大を目指しているさまがうかがえる。

 ターナー氏はまた、これらの料理本から当時も「有名シェフ」が存在したことがわかると指摘する。「初期の料理本を書いた人たちは多くの読者を引きつけ、有名になった。著書も何版も版を重ねている」

 そんなターナー氏もさすがに「カンガルーの脳みそ料理」は自宅のキッチンで作る「勇気はない」という。(c)AFP/Neil Sands