【6月10日 AFP】中国人女性Liu Dongmeiさんは、5車線の高速道路の真ん中に立ち並んだ白いテントの1つに運び込まれた。約1時間後、Liuさんの生まれたばかりの息子、Xie Zhongde君を抱えて看護師が現れると、近所から集まっていた親戚たちに笑顔があふれた。「丸々していて、本当にかわいい」。3400グラムのXie君を見ておばの1人が声をかけると、周りの親戚たちもうなずきながらクスクスと笑った。

 壊滅的な被害を与えた四川大地震以来、この近所にこうした祝福の喜びはほとんどなかった。

 Xie君が生まれたのは中国とドイツの赤十字社が共同で建てた仮設病院。地震で損壊した高速道路に30を超えるテントが並ぶ。Xie君はこの光景を一生、記憶のどこかに抱えていくのだろうか。Xie君の名前は中国語で「ありがとう、中国とドイツ」という意味だ。

 死者6万9000人以上、行方不明者約1万8000人を出した5月12日の地震以来、四川(Sichuan)省都江堰(Dujiangyan)市に開設されたこの仮設病院で生まれた子どもはXie君で4人目。こうした仮設病院は地震後の絶対的な医療の不足に対応しようと奮闘している。

「地震によって(被災地の)病院の約95%が破壊された。医療サービスを求める市民のためにこの病院はとても必要だ」。上海(Shanghai)から駆けつけ、仮設病院の医療チームを率いるZou Hejian医師は言う。

■医療インフラ崩壊で追いつかぬケア

 震災後の中国が直面する最大の問題は医療インフラの崩壊だ。一方で治療の必要な負傷者は35万人に上る。

 生存者の救出作業が一段落した後、中国政府の課題は、家を失った数百万人への食事の支給や伝染病予防、被災地住民の定期健康検診の再開などに移っている。住民の多くはテントを張って暮らしており、被災地全域のいたるところにテントが並ぶ。

 被災地医療の最前線は、赤十字社や人民解放軍、地域自治体、その他のグループが建てた仮設病院に大きく依存している。仮設病院が対応できる患者数はさまざまで、外来患者のみ受け付けるところもあれば、5月26日に開設された中国とドイツの赤十字社の仮設病院のように完全なサービスを提供するところもある。この仮設病院には中国側から医師100人、ドイツ側から技術専門家が派遣されている。テントごとに放射線科、小児科、産科、集中治療室、手術室などに分かれている。1日に診察する患者数は700-800人だという。

「テントマザー」になったばかりの前述のLiuさんは、「ここの対応はとてもいい。お医者さんたちのことは信頼している。地震後の対応はずっと素晴らしい」と語った。

 隣のベッドでやはり生まれたばかりの娘の様子を見るもう1人のテントマザー、Chen Xiaorongさんは「地震が来たときに最初に頭に浮かんだのは自分のことではなく、子どものこと。この子に何かがあっては、と思った」と語った。重いおなかを抱え、壊れかけた家からどうにか脱出した。現在、家族は病院テントの近くでやはりテント暮らしをしているが、被災地域で子育てをしていくことに不安を感じるという。「テント生活には慣れたけれど、子どもに十分な栄養を与えられるかが心配」

 ほかの仮設病院と同様にこの赤十字のテントでも、当初は骨折の治療や、がれきにつぶされた手足の切断などの処置が活動の中心だった。

 地震から1か月が経ち、四川省の蒸し暑い夏が本格化してきた。内部が高温になるテント生活の負担から、熱射病などを訴える患者が増えている。Zou医師は「もっと暑くなれば大問題になりうる」と懸念している。(c)AFP/Dan Martin