【3月19日 AFP】米連邦最高裁は18日、個人の銃所持権に関する判断を下すための審理を約70年ぶりに開始した。今回の審理は、自宅での拳銃所持を禁じた首都ワシントン(Washington D.C.)市の規制が、武器保有の権利を定めた合衆国憲法修正2条に反しているかどうかを判断する上告審。

 米国では数世紀にわたり、銃の所持権をめぐる政治論争が展開されてきた。今回の判断が下されるのは6月になるとみられる。

■ワシントン市の銃規制に住民が自衛権訴える

 専門家筋は最高裁判断は保守寄りになると予測、銃の使用と規制をめぐる米国の各法に広範な影響を与える可能性があると指摘している。

 殺人事件や路上での暴力行為取り締まりを目的にしたワシントン市の銃所持規制に対し、異議を唱えた住民の弁護人は、米国民が自衛のために自宅で銃を所持する権利を同規制が侵害していると主張した。

 最高裁判事9人は同日の審理で、合衆国憲法に記されている「武器を保有しまた携帯する」権利は個人的な権利か、集団的な権利かについて討議し、またワシントン市の規制の妥当性に関し議論した。

 ジョン・ロバーツ(John Roberts)最高裁長官は、銃使用を擁護する保守派寄りのアントニン・スカリア(Antonin Scalia)判事とともに繰り返し弁護人に対し、所持に対する全面規制など同規制の正当性を尋ねた。

 ワシントン市が自宅での銃所持を規制したのは1976年。自宅にあるすべてのライフル銃、拳銃は分解するか、引き金にロック装置をつけなければならないと定め、一般市民による銃の携行をほぼ禁じた。米国内では最も厳しい措置の部類に入る。

 この規制に対し、スカリア判事は「自宅のベッドルームの窓から誰かが忍び込む音が聞こえてから、銃に走り寄ってロックを解除し、弾を込めて発射できるだろうか」と述べ、この法律によって妨げられるのは市民の自衛のための銃使用ばかりだと暗に指摘した。

 合衆国憲法の修正第2条には「規律ある民兵は、自由な国家の安全にとって必要であるから、人民が武器を保有しまた携帯する権利は、これを侵してはならない」と定められている。ワシントン市を訴えた住民ディック・ヘラー(Dick Heller)さん(66)の弁護団は、同市の規制がこの修正第2条に違反すると主張した。原告側のAlan Gura弁護団長は、「自衛は修正第2条の示す権利の核心だ」と述べた。

 原告のヘラーさんは政府庁舎の警備員で勤務中は銃を携帯しているが、自衛のために自宅でも銃を保持したいと主張している。しかし、市側代理人のウォルター・デリンジャー(Walter Dellinger)弁護士は、修正第2条は明確に「民兵」に関して言及されたものだとし、「ヘラー氏が求める拳銃使用は、いかなる民兵の保安や能力にも関連性がない」と反論した。

■70年ぶりの最高裁審理

 合衆国憲法の修正第2条の解釈について前回、最高裁が判断を示したのは1939年にさかのぼる。しかし、この時の判断にはあいまいさが残り、賛否両派双方が自分たちの主張を支持するものだととらえ現在に至っている。

 よりリベラル寄りの判事の1人、スティーブン・ブライアー(Stephen Breyer)判事は犯罪率を持ち出し、主に拳銃を用いた暴力により首都では年間200-300人が殺害され、1500-2000人が負傷していると指摘、ワシントン市側が規制が必要だとしている根拠を補強した。ブライアー判事は「この点に光を当てれば、ワシントン市がライフルやマスケット銃の使用許可は残し、拳銃を規制している点は妥当ではないか」と問いかけた。

 銃規制を求める米市民団体「Brady Campaign to Prevent Gun Violence(銃暴力を防ぐブレディ・キャンペーン)」のPaul Helmke代表はこの日の審理終了後、「(ワシントン市の銃規制は)たぶん行き過ぎだという議論があって、判事たちは悩んでいると思う。線の引き方を決めるのが困難だと思う」と語った。

 2003年に1審が開始されたこの歴史的な審理は、米国民の関心を集めている。最高裁前には同日、銃使用擁護派と反対派数百人がそれぞれスローガンの書かれた旗などを持って集まった。数の限られた傍聴席で審理を聞くためにキャンプを張って徹夜する人々も現れた。(c)AFP/Kerry Sheridan