【12月28日 AFP】(記事更新、一部修正)MLBはシーズン終了後に公表された薬物調査報告書により歴代最多本塁打記録が汚されるなど大きな打撃を受け、2007年にその品位は地に落ち面目を失うなど半死半生の状態となった。

■ドーピングスキャンダルで揺れるMLB

 発足から約131年を経過したMLBは、12月14日に公表されたジョージ・J・ミッチェル(George J. Mitchell)元上院議員の薬物調査報告書に約80人の選手名が記されるなど、米国スポーツ史上最悪のドーピングスキャンダルに大きく揺れた。

 ミッチェル元上院議員は「ベースボール界には10年以上違法物質が蔓延していた。我々が暴いた証拠は、少数の選手やクラブが関与する孤立した問題ではないことを示している」と発表している。

 報告書にはバリー・ボンズ(Barry Bonds)、ロジャー・クレメンス(Roger Clemens)、アンディ・ペティット(Andy Pettitte)、ミゲル・テハダ(Miguel Tejada)、ウォーリー・ジョイナー(Wally Joyner)、デービッド・ジャスティス(David Justice)、ケビン・ブラウン(Kevin Brown)、ジェイソン・ジアンビー(Jason Giambi)、ゲイリー・シェフィールド(Gary Sheffield)などスター選手の名前が含まれ、その汚名から逃れたチームは一つもなく、ある者は関与を否定し、またある者はその関わりを認めている。

 MLB機構のコミッショナー、バド・セリグ(Bud Selig)氏の依頼により約20か月が費された調査の結果、薬物関与が認められた選手リストには約3チーム分の登録選手に相当する数の名が記されており、永遠にその名を汚されることになったベースボールにおけるドーピング不正の根の深さを浮き彫りにした。

 ハンク・アーロン(Hank Aaron)氏が持っていたメジャー歴代最多本塁打記録の755本を8月7日に更新したバリー・ボンズは、その約100日後に米連邦大陪審で筋肉増強剤などの薬物使用を否定した偽証罪で起訴されている。

 シーズンを終えて最多本塁打記録を762本に伸ばしているボンズ被告は、サンフランシスコ・ジャイアンツ(San Francisco Giants)からフリーエージェント(FA)となっており、有罪が確定した場合、最大30年の禁固刑を言い渡される可能性がある中でオークランド・アスレチックス(Oakland Athletics)から入団の誘いを受けている。なお、ボンズ被告は無実を主張している。

 ボンズ被告の弁護団のアレン・ルビー(Allen Ruby)弁護士は「現時点で彼は無実だ。彼は司法制度を信じている。今後は起訴容疑に対して無実を訴え、我々は良い結果が得られることを確信している」と語っている。

 MLBにとって良い結果がもたらされる希望は無きに等しく、かつてアメリカの娯楽と呼ばれていたベースボールにおいて英雄である選手とファンとの信頼は粉々に打ち砕かれた。

 60億ドル(約6900億円)ビジネスの帝国は生き残るだろうが、ベースボールは蔓延した運動能力向上薬の不正によって永遠に汚されることになるだろう。

 アーロン氏の記録が近づくにつれて地元サンフランシスコ以外のあらゆるスタジアムでブーイングを浴びるなど、ボンズ被告の歴代最多本塁打記録樹立への試みは、時間をかけて行われる拷問のようなものとなった。

 今後いくら本塁打を放ってもボンズ被告は米国のファンから真の本塁打王と認められることはないだろう。それは2001年にマーク・マグワイア(Mark McGwire)氏の持っていたシーズン70本塁打を更新してボンズ被告が打ち立てた73本塁打のシーズン最多本塁打記録についても同じことが言える。

 7度のサイ・ヤング賞(Cy Young Award)受賞を誇るクレメンスも薬物使用を否定しているが、24年のキャリアで積み上げた通算354勝194敗、防御率3.12、4672奪三振の記録にも疑惑の目が向けられている。

 セリグ氏は米上院議員の干渉の後に承認される厳しい反ドーピング規制の導入を提案しているが、ベースボールへの信頼が失われたのは選手が大型化した1990年代にステロイド検査が行われていなかったためだ。

 史上最年少での通算500本塁打を達成し、ドーピング検査が行われるようになってからも故障さえなければボンズ被告の史上最多本塁打記録を10年以内に破ると言われ、所属するニューヨーク・ヤンキース(New York Yankees)と新たに10年総額2億7500万ドル(約309億円)の契約を交わしたアレックス・ロドリゲス(Alex Rodriguez)は、運動能力向上薬の使用を否定しているが、ヒト成長ホルモンの検査を受けておらず、これまで大切にされてきたあらゆる記録と同じ道を辿ることにならないだろうか?

■活躍の幅を広げる日本人選手

 日本人選手ではボストン・レッドソックス(Boston Red Sox)に入団しMLB初挑戦の松坂大輔(Daisuke Matsuzaka)が、プレーオフ7連勝で勢いに乗るコロラド・ロッキーズ(Colorado Rockies)を降し、過去4シーズンで2度目となるワールドシリーズ制覇を遂げたでチームで重要な役割を果たした。MLB初挑戦でその頂点に立った松坂は「いつか必ずあのトロフィーを手にしたいと思っていた。チームのワールドシリーズ制覇に少しでも貢献したかった」と語っている。「Dice-K」の愛称で呼ばれる松坂は、1年目のレギュラーシーズンで15勝12敗、防御率4.40、201奪三振を記録し、ワールドシリーズで先発した初の日本人投手となった。

 その知識を得たMLBの他球団も日本に一流のタレントを求めている。

 ドジャースはプロ野球の広島カープ(Hiroshima Carp)からFAとなっていた黒田博樹(Hiroshi Kuroda)投手と総額3500万ドル(約40億円)の3年契約を結んだ。日本での11年間で通算103勝89敗、防御率3.69を記録している黒田は、2007シーズンは12勝8敗の成績を収めており、ドジャースのゼネラルマネージャー(GM)を務めるネッド・コレッティ(Ned Colletti)氏は「黒田は間違いなくFA市場で最高の先発投手であり、我々にとって素晴らしい補強となるだろう」と語っている。

 2006年シーズンにプロ野球セントラルリーグのMVPに輝いて福留孝介(Kosuke Fukudome)外野手は、シカゴ・カブス(Chicago Cubs)と4年総額6000万ドル(約66億円)でサインを交わしており、福留の獲得に際しカブスのジム・ヘンドリー(Jim Hendry)GMは「彼は外野手の最大のターゲットというだけでなく、我々の唯一のターゲットだった」と語っている。

 また、テキサス・レンジャーズ(Texas Rangers)は、過去3シーズン東北楽天ゴールデンイーグルス(Tohoku Rakuten Golden Eagles)でプレーした抑え投手の福盛和男(Kazuo Fukumori)と2年契約を交わしている。(c)AFP/Jim Slater