【8月30日 AFP】29日まで3日間の日程で中国を訪問していたアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)独首相は、中国滞在中、同国の人権問題などについて率直な議論を展開。これまで中国に遠慮がちな態度をとってきた欧州の立場からの決別姿勢を示した。

 メルケル首相は、今回の中国訪問で、胡錦濤(Hu Jintao)国家主席との会談で人権問題をとりあげたほか、政府系シンクタンク「中国社会科学院(Chinese Academy of Social Science)」での講演では言論の自由を訴えた。

このほか、中国の検閲制度への抗議活動を続ける中国人ジャーナリストらとも会談した。このなかには、 『中国青年報(China Youth Daily)』の編集主幹、李大同(Li Datong)氏も含まれている。同氏は言論の自由を問う論文を掲載したことから共産党中央宣伝部によって免職処分を言い渡された。

 このようなメルケル首相の中国に対する姿勢について、香港の嶺南大学(Lingnan University)の中欧関係専門家、Brian Bridges氏は「かなり勇気のある行動だ」と評価する。また、「欧州の首脳らが概して中国の人権問題に対しては慎重すぎるほどの態度をとるなかで、メルケル首相はやや突出した感がある」とも指摘した。

 メルケル首相の訪中は、ドイツメディアからも称賛を受けた。貿易重視の外交を展開したゲアハルト・シュレーダー(Gerhard Schroeder)前首相やヘルムート・コール(Helmut Kohl)元首相らの姿勢よりも、好意的に受け取られているようだ。

 独経済紙ハンデルスブラット(Handelsblatt)は社説で、「メルケル首相は彼女個人の確信をもって、西側が関心をもつ事項を、中国人が自分たちは挑発されていると誤解させることなく表出することに成功した」と指摘した。

 一方、「欧州も米国と同様に中国の人権問題に関心を寄せている」とみる北京大学(Peking University)のLian Yuru国際学教授は、両者の違いを「米国は人権問題を、中国に圧力をかける外交カードとして利用するが、欧州はこの問題を基本理念としてとらえている」と説明する。

 人権監視グループ「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」香港支部の研究院Nicholas Bequelin氏は、メルケル首相が市民活動家らと会談したことを評価する。

 Bequelin氏は「シュレーダー政権時代には、ドイツの対中外交において人権問題は全く無視されていた。中国人民の苦しみに対するこのような無情な政策を恥ずべきだ」とメルケル首相の前任者らを批判した。

 「経済やそのほかの面で中国と交流を深めることも重要な政策だが、だからといって中国の人々がおかれた深刻な人権状況を見て見ぬ振りをしなければならないということはないのだ」(c)AFP/Peter Harmsen