【ロンドン/英国 31日 AFP】英兵15人がイラン当局により拘束されている問題が行き詰まりを見せる中、英国政府は現状の打開に向けてイランに対する国際的圧力強化に躍起になっている。

 だが、防衛問題の専門家、Paul Beaver氏によれば、現時点ではイラン政府が宣伝戦で勝利を収めているという。

■イランは注目を集めることに成功

 イラン当局による手紙やビデオの公開をめぐり英国政府は「残忍で許し難い情報操作」と非難しているが、ここ数日、マスコミはこの話題を取り上げ続けている。

 Beaver氏は「イラン側は大勢の関心を集めている。欧米諸国の弱点を突いて女性兵士を利用し、関心を引き出すことに成功した。褒められた手法ではないが、宣伝は成功している」と語る。

 問題の「女性兵士」は、拘束された海軍兵8人、海兵隊員7人の中で唯一の女性であるフェイ・ターニー(Faye Turney)さん(26)。15人の兵士は23日、ペルシャ湾北部で銃を突きつけられ、身柄を拘束された。

■ターニーさんの映像や手紙が公開される

 特にターニーさんのテレビ映像が放送された28日以来、ターニーさんは長引く拘束問題における「顔」となっている。映像の中のターニーさんは、イスラム教徒が着用する黒いベールを着用し「拘束された15人は『間違いなく』イラン領内にいた」と語った。

 同日以来、ターニーさんが記したとされる3通の手紙が公開されたが、大半はイランの立場を強める内容となっていた。同日公開された1通目の手紙でターニーさんは、家族に対し「わたしは『強い』ので心配しないで欲しい」とのメッセージを送り、2通目では英軍部隊がなぜイラク駐留を続けるのかとの疑問を投げかけた。30日に公開された「英国民」にあてた3通目の手紙では、ターニーさんは不自然な英語で「自身や同僚が米英両国政府の政策の『犠牲』になったことを残念に思う」と述べ、悪名高い旧アブグレイブ(Abu Ghraib)刑務所の被収容者が受けた待遇と比較して15人はイランで恵まれた待遇を受けていると語った。

■英当局はイラン側の情報操作を疑う

 英国政府はターニーさんがこれらの手紙を書くよう強制されたと主張している。

 トニー・ブレア(Tony Blair)首相は30日、イラン政府を非難し「このような対応続ける理由が分からない。拘束中の15人を利用しても、誰もだまされない」と述べた。

 28日に公開されたターニーさんの映像では、その身ぶりからから強制された状況下に置かれていることが伺える。質問に答えるターニーさんはぼんやりとして、神経を張り詰めた様子でタバコを吸っている。彼女を良く知る者が「話し好き」で「社交的」と語るターニーさんの人柄とは対照的だ。

 ターニーさんが書いた手紙も綿密に分析された。筆跡学の専門家、Jan Harrison氏はデーリー・ミラー(Daily Mirror)紙に対し「手紙の文字から、ターニーさんがストレスを受けていることが分かる」と語る。1通目と2通目を比べると、ストレスを受けている兆候が後者により多く見受けられ心配な状態だという。分析結果について同氏は「2通目の手紙では、多くの文字がつぶれており、隙間が少ない。わずかだが文字が乱れているため、ターニーさんは理性を失っているように思う」と述べた。

 Beaver氏も「2通目の手紙は『おかしな英語』で書かれている。おそらく ペルシャ語から翻訳されたのだろう。3通目には文法的な誤りが含まれている」と語る。

 Beaver氏は「ターニーさんは、軍の一員がイラク駐留について意見を持たないことを知っている。軍隊においてはそれが当然」と語り、「イラク駐留英軍部隊の撤退を求める記載が、強制されて手紙を書いたことを暗示している」と述べた。同氏は、今後も映像や手紙が公開されると見ている。

 写真は30日、スカイニューズ・テレビ(Sky News)が紹介した3通目の手紙の冒頭部分。(c)AFP/SKY NEWS