【8月30日 AFP】民間人に対する化学兵器使用が疑われているシリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権に対し、米政府は巡航ミサイルなどによる懲罰的攻撃の準備を進めている。だが、このような軍事攻撃でアサド大統領が退却する見込みは薄いと専門家らは警告する。

 地中海東部には、バラク・オバマ(Barack Obama)大統領がシリア政府軍への攻撃の決断を下し次第、一斉に誘導ミサイルを発射できるよう数隻の駆逐艦が待機している。

 米国がシリアに軍事攻撃を加えた場合、数日間で終えると見込まれており、アサド政権と反体制派による戦闘の形勢に影響を与えることや政権転覆を目的とはしていない。米高官らによれば攻撃の目的は、化学兵器の使用を米国は容認しないとのメッセージをアサド大統領に送り、アサド政権が再び大規模な化学兵器攻撃を行おうとする意欲を打ち砕くことだ。

■限定的軍事介入に効果なし

 だが、独立系の有識者らは、このような限定的な軍事介入の効果には懐疑的だ。

「攻撃はシリア人たちが再び化学兵器を使おうとは思わなくなるほど、十分に大規模で、多大な痛手と損失を与えるものでなければならない」と、米大手シンクタンク「外交問題評議会(Council on Foreign Relations)」のリチャード・ハース(Richard Haas)氏は指摘する。

 米海軍将校時代に巡航ミサイル使用計画の策定に関わった経験を持つクリフトファー・ハーマー(Christopher Harmer)氏も、限定的攻撃はアサド政権軍を一時的に退却させるだけだとみる。「明確に示された戦略目的達成の一環として、兵力が適切に配備された一貫性のある攻撃でなければ、効果的ではない」

 さらにハーマー氏は、アサド政権の打倒や、化学兵器の使用能力や拡散能力を政権から奪うことは明確な目的となり得るが、化学兵器を使用したことに対する懲罰は戦略目的とはならないと指摘した。

■アサド政権に勢い与える逆効果も

 また限定的な攻撃は効果がないだけでなく、逆効果になると警告するアナリストらもいる。

 ワシントン近東政策研究所(Washington Institute for Near East Policy)のロバート・サトロフ(Robert Satloff)氏は「限定的な懲罰的措置」という誘惑に乗ることは過ちだと警鐘を鳴らす。

 サトロフ氏は米政治サイト「ポリティコ(Politico)」の論説の中で、米国の軍事攻撃がアサド政権の化学兵器使用を罰することが目的ならばその効果は、容認し得る大量殺人兵器の限界をアサド政権側に教える程度の効果しかなく、シリア内戦の結末への影響はほとんどないどころか、アサド政権側を勢いづかせる可能性さえあると指摘した。

 米シンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)」の特別研究員、アンソニー・コーズマン(Anthony Cordesman)氏も、短期的な計画は大きな全体像を見失うだろうと警告する。

 コーズマン氏はCSISのウェブサイトで、シリアにおける最も重要な問題は化学兵器の使用をほとんど止められないことだとした上で、次のように述べている。「シリアにおいて立ち向かうべき真の問題は、死者12万人、負傷者20万人以上を出し、全人口2250万人の20%がシリア内外で難民となっている現実だ。化学兵器使用に対する措置としての戦いには意味がない。米軍による象徴的な意味合いの軍事攻撃や、一方的な大規模攻撃も無意味だ。武力を行使する意味があるとすれば、それは(シリアの人々の)苦しみや戦闘、抑圧を終わらせ、米国の国益にかないながら、シリアの人々や同盟国の要求に応じることだ」(c)AFP/Mathieu RABECHAULT