【3月1日 AFP】ジョン・ケリー(John Kerry)米国務長官は2月28日、伊ローマ(Rome)で開催された「シリアの友人たち(Friends of Syria)」会合に出席後、米政府として初めてシリア反体制派への直接支援を行うと発表した。内戦状態に陥って3年目になるシリア情勢への関与を米国は慎重に深めているとみられているが、一部の専門家からは支援規模が小さすぎ、タイミングも遅すぎるとの批判が上がっている。

 国連(UN)は、シリア内戦による死者がすでに約7万人に達したと発表している。他方、監視団体などは死者10万人超と推計している。シリアのバッシャール・アサド(Bashar al-Assad)政権は反体制派に対し、スカッドミサイルを使用するなどいっそう残虐な方法で攻勢を強めている。

 こうした中、ケリー長官は米オバマ政権がシリアの「解放された地域」の再興と支援のため、反体制派連合に対し6000万ドル(約55億円)規模の非軍事支援を追加提供すると発表した。また、これとは別に反体制派武装勢力への食料および医薬品の供給を拡大する方針も示した。

 これまで米国は、主に非政府組織(NGO)を通じてシリアに約3億8500万ドル(約350億円)の人道支援を行ってきた。今回、直接支援に踏み切ったことについてある米政府高官は、イスラム原理主義やイスラム過激派組織の影響力拡大を阻止する狙いがあると説明する。「われわれと同じ価値観を共有している(シリア)反体制派は、より良い未来をもたらすことができることを示さなければならない。日々の暮らしを統治するのが、アサド政権の残虐さでもアルカイダ系過激派の規範でもない未来だ」

■関係者に広がる落胆

 しかしケリー長官の発表した支援内容は、米政府が2011年にリビアの反体制派に行ったように防弾ベストなどの防衛用軍用品を提供すると期待していた人々を落胆させている。

  「ビスケットとばんそうこうを獲得するのに7か月もかかった」。米政府の対シリア政策の大転換点といわれていた今回の支援発表について米シンクタンク、ブルッキングス研究所(Brookings Institution)の中東研究部門ブルッキングス・ドーハ・センター(Brookings Doha Center)のサルマン・シャイフ(Salman Shaikh)所長はこう評した。そのうえで「この手の支援が、現地情勢に大きな影響を与えることはないだろう。(今必要とされているのは)シリア内部の軍事バランスを移行する基盤を敷くことだ」と強調した。

 シャイフ所長は数か月をかけ、シリアの各部族の長老や実業界の有力者、支配者一族に接触してきた。アサド政権には依然6~7万人の兵士がおり、親大統領派の民兵たちさえいると指摘し、「政権側は決して誠実な交渉は行わないと思う。最後まで粘るだろう」と報道陣に語った。

■米国の対応が生んだ危険な「空白」

 オバマ大統領は昨年、ヒラリー・クリントン(Hillary Clinton)前国務長官を含む国家安全保障会議が策定した、シリアの信頼のおける反体制派グループへの武装支援を却下した。だが専門家らは、米国の生ぬるい対応が今、シリアに真空状態を生じさせつつあり、その隙にイスラム過激派がのさばれば、アサド政権後に台頭する勢力が何であっても、米国が望むような長期的な統治は難しくなるとの見方を示している。

 例えば、米国務省が昨年テロ組織に指定したイスラム聖戦士集団「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」の台頭についてシャイフ所長は、村に入り込んで援助を提供するなど「非常に貧しく絶望感が拡大している世界の片隅で、社会的つながりを築いている」と警鐘を鳴らす。

 ただし、米政府が自国軍を派遣したいという欲求は「イラク戦争が終わり、アフガニスタンから撤退中という現状においては、極めて限られている」と、米シンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)」のAram Nerguizian上級研究員は指摘する。

 また、アサド大統領が今退陣したとしても、シリア情勢は派閥間闘争から抜け出せないだろうとの懸念もある。Nerguizian上級研究員はこう分析している。「イスラム教アラウィ(Alawite)派のような少数派は、現在の戦闘にその存在を賭けており、レバント(Levant)地域(東部地中海沿岸)において自分たちが存在感を強める機会だと捉えている。この事実がアサドの去就の行方によって変わることは、ほぼない」

■米国の狙いは

 米国がシリアの政権交代によって、長年にわたるイランとシリアの同盟関係が崩壊することを期待しているのは明白だ。米政府はイランが物資や人員、ノウハウなど全面でアサド政権を支援し、レバノンのイスラム教シーア派組織ヒズボラ(Hezbollah)のシリア介入も促していると非難している。

 米上院中東小委員会の委員長を務めるロバート・ケーシー(Robert Casey)上院議員(民主党)は、米外交専門誌フォーリン・ポリシー(Foreign Policy)の中で「何も行動を起こさなければ、地域に深刻な結果をもたらし、核問題の先行きが不確実な時期にイランを勢いづかせ、さらにヒズボラをつけあがらせることになる」と論じている。(c)AFP/Jo Biddle