【12月16日 AFP】パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)で、イスラエル政府が承認していない違法なユダヤ人入植地の一部をイスラエル軍が解体したことに対し、ユダヤ人の原理主義者たちが腹いせにパレスチナ人のモスクに放火する事件が相次いでいる。

 14日にはエルサレム(Jerusalem)で、倉庫として使われていた元モスクが放火された。外壁が焦げただけで火は燃え上がらなかったが、壁にはイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)を侮辱する言葉や反アラブのスローガン、売却地であることを示すような「値札」などの落書きが残された。同日夜にはカルキリヤ(Qalqilya)でパレスチナ人の車が複数放火され、やはり「値札」の落書きなどが残されていた。

 15日には、ヨルダン川西岸(West Bank)のラマラ(Ramallah)に近いブルカ(Burqa)村のモスクが放火され、女性用の施設の一部が燃えた。壁にはヘブライ語で「戦争が始まった」と書かれていたほか、ナブルス(Nablus)近郊にあるミツペ・イトゥザル(Mitzpe Yitzhar)入植地の名前も落書きされていた。同入植地では前夜、パレスチナ人の私有地内にユダヤ人入植者が違法に建てた家屋と飼育小屋をイスラエル軍が解体していた。

 こうした襲撃事件は、イスラエル政府が違法入植地を解体する過程で、ユダヤ人入植者側の反動として起きている。一連のモスクに放火し「値札」の落書きを残す襲撃は通常、パレスチナ人が標的とされているが、9月にガリラヤ(Galilee)のベドウィン(Bedouin)村のモスクが放火されて以降、アラブ系住民を標的とするものも増えており、またイスラエル人の左派運動家やイスラエル軍も標的となっている。

 今週12日、原理主義ユダヤ人入植者たちは抗議デモを実施し、ヨルダンとの境界沿いにある立ち入り禁止の軍事地域内に侵入。13日にはヨルダン川西岸にあるイスラエル軍基地を襲撃、車両を破壊した。

 ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は14日夜、自らが率いる右派政党リクード(Likud)の会合で、「わが軍の兵士たちに対する彼ら(原理主義のユダヤ人入植者)の攻撃は許さないし、われわれの隣人との宗教戦争を誘発することも許さない。モスクの神聖を冒涜させもしないし、ユダヤ人でもアラブ人でも傷つけることは許さない。彼らを拘束し、裁いてみせる」と強く非難した。

 ただ、これまでもイスラエルの指導者たちはこうした事件を直ちに非難してきたが、実行犯が拘束されることは滅多にない。

 一方、パレスチナ人社会は一連の襲撃事件に激怒している。パレスチナの指導者たちは、実行犯を罰しもせず放置しているとしてイスラエル政府を非難。マフムード・アッバス(Mahmud Abbas)自治政府議長の報道官、ナビル・アブ・ルデイナ(Nabil Abu Rudeina)氏はAFPの取材に対し「モスクへの放火は、ユダヤ人入植者たちによるパレスチナ人への宣戦布告だ」と怒りをあらわにした。

 パレスチナ自治政府は、イスラエル軍が「入植者たちの暴力の台頭を防ぐ努力も、罰することもしていない」と批判し、「そうした方針がパレスチナ人とその礼拝の場への入植者たちの憎悪犯罪をたきつけている。イスラエル政府がそのような原理主義者を無罪放免にする方針だから、こうした事件がいつまでも続いている」と強く責めている。(c)AFP