【12月14日 AFP】米国は2010年、対国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)およびアフガニスタンの旧支配勢力タリバン(Taliban)の掃討戦略として、駐アフガニスタン米兵を3倍に増やし、パキスタン領内での空爆を倍増した。その一方で、死傷者の数は記録更新を続け、先行きは依然として不透明なままだ。

 就任以降、バラク・オバマ(Barack Obama)米大統領は5万人を超える米兵をアフガニスタン投入して勢力拡大をはかるタリバンを封じ込め、アフガニスタン国軍の創設を支援し、2011年の米軍撤退という目標を掲げた。

 アフガニスタンおよびパキスタンで展開する米軍主導の北大西洋条約機構(NATO)軍は14万人規模に上る。だが2010年、これまでに外国軍兵士683人が死亡。これは1日あたり兵士2人が死亡するというペースで、前年の死者数521人を大きく上回って、過去最多の死者数となった。さらに、タリバンは北部や西部で勢力拡大を続けている。

 NATO軍は、ケシ栽培の拠点となっているアフガニスタン南部ヘルマンド(Helmand)州マルジャ(Marjah)や、タリバンの精神的な本拠地である南部カンダハル(Kandahar)で大規模な掃討作戦を行った。しかし、その成果については成否が入り交ざったものとなっている。 

■揺らぐ米軍の撤退見通し

 オバマ大統領は2009年、アフガニスタン駐留米軍の撤退を2011年7月までに開始すると言明した。しかし、最近では米軍撤退への言及は減る一方だ。

 アフガニスタンのハミド・カルザイ(Hamid Karzai)大統領は7月、国際社会に向けて、2014年中には国内治安を全面的に掌握することを確約した。だが、それから、わずか4か月後、オバマ大統領はポルトガル・リスボン(Lisbon)で開かれたNATO首脳会議で、2015年も米軍部隊がアフガニスタンに駐留する可能性を示唆している。

 一方、アフガニスタン駐留米軍のデービッド・ペトレアス(David Petraeus)司令官は、米軍がアフガニスタンで2014年までに「勝利」する可能性に疑念を表明しており、タリバンが再編成を繰り返して勢力増強をはかっていると語っている。同様に、米国防総省も11月に発表した報告書のなかで、掃討作戦の進展状況は一定ではなく、タリバンに対する米軍の優勢度は、ごくわずかだとの認識を示した。

■「世界で最も危険」と米政府が指定する国境地帯

 米軍はパキスタン北西部のアフガニスタンとの国境沿いにある部族地域で、無人機による攻撃を強化している。にも関わらず、米政府は、同地域はアルカイダが本拠地としているうえ、タリバンの後方基地でもあることから「地球上で最も危険な場所」とみなしている。

 欧米の情報機関によると、5月にニューヨーク(New York)で起きた爆破未遂事件の容疑者は、パキスタンの部族地域、北ワジリスタン地区(North Waziristan)で訓練を受けていた。また、10月にも欧州を狙ったテロ計画が指摘されているが、この計画が練られた拠点も同地域だったという。

■指導力発揮できないアフガニスタンとパキスタンの中央政府

 だが、当事国であるアフガニスタンとパキスタン両政府は、これまでになく政治的に弱体化している。米政府から、ほぼ無条件で大規模な資金援助を受けているにもかかわらず、依然として汚職が横行する有り様だ。

 そのうえ、パキスタンは国土の5分の1が浸水し2100万人が被災するという大規模な洪水に見舞われ、悪化していた経済は壊滅的な状況まで落ち込み、アシフ・アリ・ザルダリ(Asif Ali Zardari)大統領の支持率は過去最低を記録している。

 米軍はパキスタン政府に対し、アフガニスタンのタリバン勢力や北ワジリスタン地区内のジャラルディン・ハッカニ(Jalaluddin Haqqani)タリバン司令官が率いる武装グループの掃討作戦を実施するよう求めてきた。だが、弱体化したザルダリ政権に、抵抗する軍部を掌握する力はない。(c)AFP