【6月3日 AFP】レバノンのフアド・シニオラ(Fuad Siniora)首相は2日、同国北部のナハル・アルバレド(Nahr al-Bared)難民キャンプを占拠するイスラム教スンニ派武装グループ「ファタハ・イスラム(Fatah al-Islam)」に対し改めて投降を求めると同時に、投降しない場合は武力で制圧すると警告した。

■レバノン首相、ファタハ・イスラムを非難「市民を人の盾にしている」

 シニオラ首相はアラブ首長国連邦の独立系衛星テレビ局「アルアラビーヤ(Al-Arabiya)」のインタビューで、ファタハ・イスラムを「テロリストのギャング集団」と非難し、「彼らは投降し、武器を捨てなければならない」と述べた。同首相は武装勢力が投降すれば公正な裁判を受けることになると述べる一方、「問題を根絶するための外科手術」と例えた軍による掃討作戦が実行中であることを強調した。

 これに先立ちファタハ・イスラムの広報担当は最後の1人まで戦い続けると述べていた。

 シニオラ首相は、ナハル・アルバレド難民キャンプでは5月20日の戦闘開始後、多くの一般市民が避難しし、戦闘開始前の3万1000人だったキャンプ内の人口は、現在は武装グループを含め3000人以下に減ったとの見方を示した。同首相はファタハ・イスラムのメンバー250人が一般市民を人間の盾として使っているとして非難した。

 ファタハ・イスラムの広報担当はAFPの取材に対し、レバノン軍の攻撃に屈することはなく、レバノン軍がキャンプに入ることはできないと話していた。

■戦闘14日目、レバノン軍攻撃用ヘリコプター投入

 AFPの特派員によると、レバノン軍は戦闘開始から14日目となる2日、同キャンプに向けて155ミリ砲による攻撃を開始した。

 レバノン軍は高台に設置された重砲で、武装グループの大半が塹壕を作って身を隠しているとみられるキャンプの北西部を砲撃したほか、一連の戦闘で初めて攻撃用ヘリコプター2機も投入した。

 現地のAFPカメラマンは、2機のヘリコプターはファタハ・イスラムの陣地上空を10数回通過し銃機関銃で攻撃した一方、武装グループも対戦車ロケット弾で応戦したが、ヘリコプターに命中はしなかったと話す。

 交渉による仲裁を試みるパレスチナのイスラム教聖職者組織のSheikh Mohammed al-Hajj氏は、砲撃の中止を求めている。

 パレスチナ統一政府のイスマイル・ハニヤ(Ismail Haniya)首相が属するイスラム原理主義組織ハマス(Hamas)は、レバノン軍が難民キャンプの北と東の入り口付近で行った、武装勢力の排除などの「具体的な進展」が交渉による事態の収拾に向けた道筋を付けると述べている。

 レバノン軍広報担当官は、「同難民キャンプの北部と東部の塹壕を制圧し、工兵がファタハ・イスラムの戦闘員が仕掛けた爆発物を除去するための処置を行った」と発表した。

■戦闘による死者、内戦後最悪の95人に

 レバノン軍は、2日の戦闘で兵士4人が死亡したことを明らかにした。一連の戦闘による死亡者はレバノン兵42人とファタハ・イスラムの戦闘員41人を含む95人となり、1975年から1990年まで続いた内戦以後最悪の事態となっている。

 ナハル・アルバレド難民キャンプにいるPLO主流派ファタハ(Fatah)のAbu Imad Halwani地区隊長は、1日の戦闘で少なくとも8人のファタハ・イスラムの戦闘員が死亡した模様だが、ファタハが制圧する地域に避難した一般市民に死者はなかったとしている。

 同隊長は、ファタハ・イスラムの戦闘員がレバノン軍の包囲攻撃から逃れようと一般市民に紛れ込むのを防ぐため、ファタハは土や砂でキャンプ中央部に防塁を作っていると述べた。同隊長はキャンプ内に残された人の数は5000人とみており、食糧と水は底をついてきているという。

 Halwani隊長はレバノン軍について、「キャンプ内に進入してはいないが、北と東から包囲作戦をとっている」と述べ、ナハル・アルバレド難民キャンプの周囲からファタハ・イスラムへの攻撃を続けているというレバノン軍の発表を裏付けた。

 慣例によりレバノン軍は国内12か所にあるパレスチナ難民キャンプ内に入らず、キャンプ内の治安維持はいくつかの武装勢力が担ってきた。

 国際赤十字(International Red Cross)の国際委員会は、すべての当事者に一般市民を攻撃しないよう要請している。(c)AFP