【5月30日 AFP】イラク戦争で息子を亡くして以来、反戦活動家として行動してきた米国のシンディ・シーハン(Cindy Sheehan)さんが29日、活動からの引退を宣言した。

 シーハンさんは2005年、テキサス(Texas)州クロフォード(Crawford)にあるジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)大統領の私有農場前にキャンプを張り、休暇中の大統領に対して面会を訴えて座り込み、一躍反戦のシンボル的存在となった。

 しかし、シーハンさんは米国のメモリアルデー(戦没者追悼記念日)である29日、米国の世論や政治に幻滅を感じ、また活動により金銭面や家族との関係に支障をきたしたとし、ネット上の自身のブログ(日記)で反戦活動から身を引くと発表した。「これは反戦運動の”顔”としての立場からの辞表」、「家に戻り、失ったものを取り戻したい。残された子どもたちの母親として過ごしたい」などと記した。

 活動停止を決意するまでには1年かかったという。「今朝になって達した最も辛い私の結論は、ケーシーはむだ死にしたということです」。シーハンさんの息子、ケーシー(Casey Sheehan)さんは2004年4月にイラクで戦死した。

「息子が死んでから毎日、彼の犠牲を有意義なものにしようとしてきた。しかし、ケーシーがその命を犠牲にした米国とは、今後数か月に何人がイラクで殺されるかよりも、次の”アメリカン・アイドル”に誰がなるのかを気にかける国。民主党と共和党が、政治的駆け引きの上で人の命をもてあそんでいる」、「反戦運動によって変化をもたらせるという信念を失った」と述べた。

 特に、民主党が昨年、上下両院で多数派となったにもかかわらず、イラクからの撤退期限を予算案に盛り込むことをあきらめたことなどで、政治に期待するものはなくなったと指摘。「ブッシュ大統領が弾劾されることは決してないだろう。民主党が深く追及していけば、自分の墓穴にある骨も掘り起こすことになるだろうから。システムとは、システム自身の存続の中で生きながらえるものだ」と与野党双方への不信を示した。

 また「自分がこんなシステムを長年信じていたのだ、ということを知ったことが、私は非常に心痛い。ケーシーはその忠誠の代償を払うことになったのだ。息子を見捨てたのは自分。それが最も辛い」と吐露した。

 シーハンさんは最後に、「私は持っているものすべてをつぎ込んで、この国に平和と正義をもたらしたいと思った。しかし、そのどちらをもこの国はほしいと望んではいなかった」、「さようなら、アメリカ・・・あなたは私の愛する国ではなかった。いくら私が自分を犠牲にしても、あなた自身が望まない限り、私が変えることはできないとようやく気づいたのです」と述べた。(c)AFP