【11月27日 AFP】プロ野球界で最も長い歴史を持つ人気球団の内紛で、メディアの将軍と元記者の中傷合戦が注目を集めている。

 清武英利(Hidetoshi Kiyotake)氏(61)は、一般からは絶対的と呼ばれる読売ジャイアンツ(Yomiuri Giants、巨人)の会長を批判し、球団のゼネラルマネジャー(GM)の座を追われた。

 25日に記者会見を開いた清武氏は、「解任は、会長のコンプライアンス違反を隠蔽するための報復措置で、違法、不当なもの」と語り、12月にも法的措置をとるとしている。

 清武氏は当初、球団内部での権力の乱用を内部告発を行ったものの、会見が日本シリーズから注目を逸らしてしまったこともあり、清武氏自身もメディアからは独裁者と表現された。

 清武氏のターゲットは、株式会社読売新聞グループ本社(The Yomiuri Shimbun Holdings)の会長・主筆および、巨人軍取締役会長の渡邉恒雄(Tsuneo Watanabe)氏(85)だった。

 歴代の首相との親交もある渡邉会長は、読売新聞の政治記者、幹部職などを経て、1991年に同社の社長の座に就くと、その後は政界などにも大きな影響を及ぼしている。

 社会部の記者を経て、2004年には米大リーグ(MLB)球団におけるGMと同等のポストとなる球団代表の役職に就いた清武氏は11月11日、既に決定していた岡崎郁(Kaoru Okazaki)ヘッドコーチの留任を渡邉会長が「鶴の一声」で覆したと告発。渡邉会長は、元巨人軍投手で解説者の江川卓(Suguru Egawa)氏を同ポストで起用し、2011年シーズンを3位で終えた球団の人気回復を狙っていた。

 清武氏は、渡邉会長の介入行為を「暴挙」とし、プロ野球球団の役職任命の適正な手続きをないがしろにするだけでなく、「コーチや選手、ファンを裏切るもの」と語った。

 一方の渡邉会長は翌12日に談話を発表し、清武氏の言動は「悪質なデマゴギー(民衆扇動)」、「事実誤認であり、許されざる越権行為及び名誉毀損」だと反論した。
 
 これを受け巨人軍は18日に、球団「及び読売新聞グループの名誉、信用を傷つけ、イメージを著しく悪化させた」とし、清武氏の解任を発表。一方の清武氏は、すぐさま応戦の構えを見せた。

 渡邉氏はその数日後記者団に対し、「10人、最高級弁護団を用意している。法廷ならわが方の最も得意とするところ。法廷で負けたことはないんだ」とコメントを残した。

 巨人は、これまで21度に渡り日本シリーズを制覇するなど、その戦績や全国にファンが広がっていることから「日本のニューヨーク・ヤンキース(New York Yankees)」と呼ばれることもあり、本塁打王の王貞治(Sadaharu Oh)氏や、元ニューヨーク・ヤンキース、現オークランド・アスレチックス(Oakland Athletics)の松井秀喜(Hideki Matsui)を輩出している。

 読売新聞の商売敵である朝日新聞(Asahi Shimbun)の記者は、「今回の騒動で、球団経営者はプロ野球が公衆の文化財であることを再認識してくれればいい」と記事に記している。

 また、「菊とバット(The Chrysanthemum and the Bat)」や「和をもって日本となす(You Gotta Have Wa)」の著書を持ち、日本文化や野球界に関する本を数多く執筆した米国人作家のロバート・ホワイティング(Robert Whiting)氏は、日本の球団の運営方法に問題があると指摘した。

 ホワイティング氏は、「日本では、球団はオーナー会社の広告塔として運営されている。つまり巨人は、読売新聞のプロモーションのために存在している」「清武氏は不当解任に関する訴訟では勝訴できるかもしれないが、現に読売新聞社と巨人の将軍様は渡邉会長だ。彼の望む様になるんだ」とコメントしている。(c)AFP/Shigemi Sato