【12月12日 AFP】米国の情報機関の情報を集約して分析する国家情報会議(National Intelligence CouncilNIC)は10日、2030年までに中国が世界最大の経済大国となり、混迷の度を深める世界の中で米国がただ1国の超大国ではなく「同等の国々の中の1番手」になっている可能性が高いとの報告書を発表した。

 NICの評価報告書は米国の戦略的構想の形成を目的としたもので、4年ぶりに発行された。137ページの報告書の中でNICは、他に出されている予測と同様に2020年代には中国が米国を抜いて世界最大の経済国になるだろうと予測している。

 報告書は、弱体化するとはいえ米国は世界的な危機の解決で果たす役割や、その科学技術力、そして米国外の人々を魅了する「ソフトパワー」により、おそらく今後20年間は世界で最も有力な国でありつづけると予測している。

 その一方で、「諸外国の急速な台頭により『一極構造の時代』は終わり、パックス・アメリカーナ──国際政治において米国が主導権を握った1945 年以降の時代──は急速に終わりに近づくことになる」としている。

■中国の大国化に「不確実性」、日欧経済の衰退はつづく

 報告書は、2030年までにアジアの経済規模、軍事費、科学技術への投資が、北米と欧州を合わせたよりも大きくなると予測。一方、興隆する中国については大いに不確実性があると指摘した。

「中国の政権が、より持続可能な、イノベーションを基盤とした経済モデルへの移行に失敗すれば、中国はアジアでトップレベルの国ではあり続けるだろうが、目を見張るような勢いに伴っていた中国の影響力は消散するだろう」

 中国の世界的な影響力の増大は今後も続くだろうが、それはよりゆっくりとしたものになるだろう。成長が鈍化した国は「不安を感じるようになり、強硬姿勢をとりがち」だと報告書は指摘する。

 報告書の主執筆者、マシュー・バローズ(Mathew Burrows)氏は記者団に対し、仮にアジアの緊張が高まり続けるならば米国の指導力を支持する国が増え、「中国自身の行動が中国にとって最悪の敵になるという状況も起こり得る」と語った。

 欧州、日本、ロシアの経済的衰退は2030年まで緩やかに続くとみられる。一方、コロンビアやエジプト、インドネシア、イラン、メキシコ、南アフリカ、トルコなどの多くの中進国が台頭する可能性があるという。

■人口増加、資源不足、気候変動

 報告書は、2030年までに科学技術が大きな恩恵をもたらすと予測する一方、気候変動が深刻な課題を突きつけるだろうとしている。また、世界の人口増と所得水準の上昇により、世界で2030年までに水の需要が35%、食料の需要は40%、エネルギー需要は50%増えると予測している。

 NICのクリストファー・コジム(Christopher Kojm)議長は「世界的な資源不足が不可避というわけではないが、指導者たちはそのような未来を回避するために行動しなければならないだろう」と述べた。

 経済的に豊かになった中国とインドは輸入食料への依存を強めていくと考えられ、食料の国際価格は上がるだろう。そうなれば低所得国の家計が最も打撃を受けることになり、社会に対する不満があおられることになる。

 NICは、2030年の世界人口は現在の71億人から83億人に増加し、平均年齢は現在よりも高くなっているとみている。このことで非常に大きな影響が出る可能性があるという。

■若年人口が多い国に不安定化の予兆

 報告書によると、これまでの武力衝突や民族衝突のの80%は若者人口の多い国々で発生している。だが若者の多い国は2030年までに大幅に減り、その大半がアフリカの諸国になるという。

 アフリカ以外で若者人口が多く、衝突が起きる危険性が潜在する国にはアフガニスタンやパキスタン西部の部族地域がある。「両国とも若者人口が多く、経済成長が遅いことも相まって不安定化する予兆がある」

 インドは、強い経済成長によって見通しは比較的良いものの、北部の経済的に貧しいビハール(Bihar)州とウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州における若者人口が課題になるだろうと報告書は述べる。

 一方、中東は2030年には「(今とは)かなり異なる場所」になるという。独裁的指導者らを退陣させた抗議行動「アラブの春」で路上に繰り出した若者人口が、徐々に高齢化するためだ。

 とはいえ、バーレーンやイラク、リビア、シリア、イエメンなど、宗派などをめぐる緊張が常態化した国々の不安定化を報告書は予測する。イエメンは再び分裂する可能性もある。

■アルカイダは脅威でなくなる

 報告書は、国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)を当初支持していた層はテロリズムによって離れていくとして、アルカイダが2030年にも脅威であるとは考えにくいとしている。バローズ氏は、「2030年までには、イスラムテロリズムのサイクルは疲弊してしまっていると考えている」と語った。

 イランについては、仮に核兵器を開発すれば「広範囲に及ぶ不安定化」が起きるだろうとしつつ、世論の圧力や聖職者組織内の内紛により、今よりも欧米寄りになる可能性もあるとしている。(c)AFP/Shaun Tandon