【9月23日 AFP】民主化を求める抗議行動によって、エジプトで30年に及んだムバラク政権が転覆するには18日しかかからなかったが、2月の同政権崩壊以降、暫定統治を行っているエジプト軍最高評議会と別れを告げるには、少なくとも18か月はかかりそうだ。

 エジプト軍最高評議会は今週、大統領選挙を実施するまでは権限移譲を行わないと発表した。示された日程によると、権限移譲は2012年8月以降ということになる。

 選挙委員会の委員長が示した計画では、3段階に分けた議会選が11月21日に始まり、1月3日に終了する。その後、上院選が1月22日に始まり、3月4日に終了する。

 この上院選の後に、ホスニ・ムバラク(Hosni Mubarak)前大統領の追放後、懸案になっていた改憲案の策定を改憲委員会が行う。この作業は半年を要し、軍最高評議会では、その後に新大統領を選ぶ選挙を実施するとしている。

 2月の民主化要求デモで機動隊や政権側の暴徒たちに立ち向かった大勢の勇敢な民衆のうち、ムバラク政権の崩壊が軍政の長期化を招くことになると予想した者は多くなかっただろう。

■各方面の思惑が絡んだプロセス遅延

 しかし、匿名のある軍高官は、ムハンマド・フセイン・タンタウィ(Muhammad Hussein Tantawi)氏が議長を務めるエジプト軍最高評議会だけが民主化プロセスの遅れについて責めを負うべきではないと主張した。「選挙を遅らせよという多くの要求があったし、治安情勢も安定していない」

 エジプトでは今も散発的に暴動が起こっている。9月に入ってからも、イスラエル大使館にデモ隊が乱入して警官隊と衝突し、死者が出る事態となった。また、警察自体、2月の民衆蜂起から立ち直っていない。

 先の軍高官によると、議会選と上院選を分けることは今月に入ってから決定されたことで、これにより権限移譲はさらに先送りされるが、これは同時選挙を行った場合の監視要員が足りないからという理由で、裁判官らから要請があったためという。
 
 権限移譲プロセスは、数々の活動家グループや政党によるさまざまな要求に悩まされてきたが、軍や実質的な暫定政権である軍最高評議会の反応によっても同じように攪乱されてきた。

 ムバラク追放を果たしたデモ参加者は、「ムバラクからタンタウィに入れ替わっただけじゃないか」とのスローガンを叫び、今度は軍最高評議会に対するデモを行っている。

 一方で世俗的な団体の多くは議会選の遅れを望んでいる。彼らよりも組織化され、資金力もあるイスラム団体が、議席をさらってしまうことを恐れているのだ。政界周辺が権限移譲に関する合意形成を回避している中、エジプトで最も組織化された団体であるイスラム原理主義組織ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)は早期の議会選実施を求めている。

 アル・アハラム政治戦略研究所(Al-Ahram Centre for Political and Strategic Studies)のアナリスト、ナビル・アブデル・ファタハ(Nabil Abdel Fatah)氏は言う。「対立し合う要求が存在している。権限移譲の明確なロードマップが欠如しているからだ」(c)AFP/Samer al-Atrush