【9月5日 AFP】英国のゴードン・ブラウン(Gordon Brown)前首相の下で財務相を務めたアリステア・ダーリング(Alistair Darling)氏が回顧録の中で「背後から仲間を刺すような残忍非道な政権だった」などと述べ、ブラウン前政権の内幕を暴露した。

 英日曜紙サンデー・タイムズ(Sunday Times)で連載が始まった回顧録『Back from the Brink: 1,000 Days at Number 10(瀬戸際からの生還:ダウニング街10番地での1000日間)』でダーリング氏は、ブラウン前首相が「常に混沌(こんとん)と危機の空気で(政権を)支配」していたと評した。また、ダーリング氏自身も「刺客」を仕掛けられて予算案の成立を阻止されるなど、ブラウン前首相の攻撃に一度ならずさらされていたと述べている。

 世界金融危機と重なる2007年6月から2010年10月まで英財務相を務めたダーリング氏だが、ブラウン前首相の右腕であるエド・ボールズ(Ed Balls)前児童・学校・家庭担当相を財務相に指名するまでの「当座しのぎ」のつもりで、自分が任命されたことは明らかだと語っている。しかし、2009年5月、ブラウン氏がダーリング氏を財務相の座から追い落とそうと試みたとき、ダーリング氏は「ゴミのように捨てられた犠牲者」になることを拒否した。

■世界金融危機の見通し、決定的な食い違い

 回顧録によると、2008年のリーマンショックの直前、ブラウン前首相は経済低迷はせいぜい半年程度と考えていた。この時、経済の見通しは60年来で最悪だと的確に指摘したダーリング氏に対し、ブラウン氏は烈火のごとく腹を立てた。

 ダーリング氏は「暗黒の日々だった」と振り返る。「ゴードン氏が経済はすぐに回復すると考えていることを私が知っていれば、自分の財務大臣である私にそう言ってくれていれば、それについて話し合うことができたのに。問題は、私の忠言を彼が全く信用しなかったことだ」

 この後、自分を追放するために、ブラウン氏が記者会見に「刺客」を仕掛けたと、ダーリング氏は非難している。「まるで私に向かって地獄の軍団が放たれたようだった」。ダーリング氏は面と向かってブラウン氏に、攻撃を止めて欲しいと言ったが、ブラウン氏は「私には一切関係ない」と責任を否定したという。この体験についてダーリング氏は、サンデー・タイムズに「地獄だった。非常に個人的(な攻撃)で、心に傷が残った。乗り越えることができないような傷だ」と語っている。

■「拷問」のようだった2009年予算案作成

 回顧録は、確かな内容だった予算案が、ブラウン氏によって台無しにされたことについても触れている。予算案の作成段階で、もっと楽観的な経済成長予測に変えることを求められたり、ブラウン前首相に歳出削減を納得させやすい案にするといった無益な努力をするよう、容赦ない圧力がかけられたという。

 この2009年の予算案作成は、まるで「拷問」だったとダーリング氏は記している。会議は毎回直前にキャンセルされ、「提出の48時間前になっても、まだ何の予算案も手元になかった。文字通り最後の1分まで書き直していた」

 それから1か月後、ダーリング氏は当時、外相だったデービッド・ミリバンド(David Miliband)氏と、ブラウン前首相を政権から排除する手段があるかどうか、協議したという。だが結局2人は、ブラウン氏に退陣の意志はないだろうし、ブラウン氏に代わる首相候補もいないという結論に達した。 ブラウン政権は、周囲を「ブラウン派の『徒党』で固めた、非道な政権だった。我々閣僚の多くが衝突した」(ダーリング氏)

 ダーリング氏は、かつてトニー・ブレア(Tony Blair)元首相がブラウン氏と接することについて「歯医者で麻酔なしに歯を削られるようなものだ。それが延々と続く」と評したエピソードも披露している。(c)AFP