【4月20日 AFP】南アフリカの与党アフリカ民族会議(African National CongressANC)のジェイコブ・ズマ(Jacob Zuma)議長(67)は、外国の風刺画では決まって「暴力的なアフリカのポリガミスト(一夫多妻者)の典型」として描かれ、同国の白人の国民の多くは、彼を新たな独裁者だと警戒している。しかし、国民の大半は彼を「自分たちの(次期)大統領」だと歓迎している。

■汚職疑惑もちらつく中での大統領への道

 南アフリカでは22日に総選挙が行われるが、1994年の初の全人種選挙以来、政権を独占してきたANCのズマ議長の第4代目大統領就任が確実視されている。だが、自国の文化と西洋的規範との間で折り合いをつけようとしない同氏の姿勢が、これまでの大統領の中で最も物議を醸すことは必至だ。
 
 ズマ氏には、4人の妻と18人の子どもがいる。伝統行事にはズールー(Zulu)人の伝統衣装であるヒョウの皮をまとって参加する。ANCの集会では、反アパルトヘイト(人種隔離政策)闘争時に歌われた「Umshini Wami(わたしにマシンガンを持ってこい)」という歌を、踊りながら披露する。

 ここ何年かは汚職疑惑が取りざたされてきたが、同国の検察当局は4月初め、政治的干渉があったことを示唆し、最終的にズマ氏の訴追を断念すると発表した。だが、同氏への疑惑が晴れたわけではない。

■貧困層取り込みANC内左派を固める、白人国民には不人気

 少年時代は故郷のズールーランドで牛を追っていたというズールー人のズマ氏は、ANCでめきめきと頭角を現し、副大統領にまで上りつめた。しかし2005年、党内の政敵である当時のターボ・ムベキ(Thabo Mbeki)大統領によって、汚職疑惑を理由に副大統領を罷免された。

 その後、ムベキ大統領に不満を抱く貧困層を取り込み、労働運動や南ア共産党の活動に関与する側近たちの組織化の力も功を奏して、2007年12月に行われたANC議長選でムベキ氏を抑えて当選した。その9か月後、ズマ氏率いるANCの新執行部は、ムベキ氏に大統領辞任を要求。ムベキ氏は要求を受け入れた。

 ズマ氏の伝記作家、ジェレミー・ゴーディン(Jeremy Gordin)氏は、ANCの左派グループは、英国で教育を受けたムベキ氏のエリート主義の下で疎外されたと指摘する。これに対し、独学で学んだズマ氏は都市部のインテリ層による「近代主義者的な偏見の数々」に公然と立ち向かったと、政治評論家Xolela Mangcu氏は分析する。「ズマは一部の人間、特に白人たちを戦々恐々とさせている」

 最近の世論調査で得られたズマ氏に対する評価は、黒人の国民間では10点満点中7.7点だったのに対し、白人の間では1.9点と極めて低かった。

■対立陣営にも耳傾ける交渉手腕が見もの

 一般的にズールー人は、アパルトヘイトを導入したアフリカーナー(オランダ系移民の子孫)を「不倶戴天の敵」とみなしていると考えられている。ズールー人はまた、1999年にネルソン・マンデラ(Nelson Mandela)氏が政界を引退して後、自分たちが「忘れられた存在だ」という不満を抱いてきた。

 一方で、コラムニストのダン・ルート(Dan Roodt)氏は地元紙に「知識階層は、アフリカーナーもズールー人も、望ましくない過去の遺物だとみなしている」と寄稿し、「ズマ新政権には白人の国民の存在も認めてほしい」と要望した。

 もしもズマ氏が、失望させられている人々の希望をも受け入れることができるならば、それは彼が「他人を思いやる」という類い希な才能に恵まれているからだ。先のゴーディン氏は、著書の中で「彼は非常に魅力的な男。他人を尊重する人物でもある」と書いている。

 しかし、こうした性格が裏目に出ることも予想される。ANCのある関係者は「彼は周囲のすべての人間の声に耳を傾ける。それが判断を鈍らせることもある」と懸念する。実際、ズマ氏は演説の内容を聴衆に合わせて変える中で、主張がたびたび矛盾する場面もある。

 ズマ氏の魅力は、その内側に秘めた忍耐強いどん欲さを覆い隠している。その忍耐強さは、アパルトヘイト時代の10年間の獄中生活、国外でANCの諜報活動を指揮した経験で培われたものだと、ゴーディン氏は言う。

 ズマ氏はまた、アパルトヘイト撤廃後の民主主義への困難な移行期に重要な役割を果たし、ブルンジの紛争問題解決にも交渉手腕を発揮した。

 地元スター(Star)紙は最近の社説で「彼は愚か者でも、文盲でもない。だが大衆受けしたい場合には、公的な教育を受けていない点を大いに売りにしている」と評した。(c)AFP/Isabel Parenthoen