【7月17日 AFP】英政府による駐英ロシア外交官4人の国外追放は、英露関係における新たな火種となりそうだ。両国はこれまでもスパイ行為やロシアの政策、チェチェンの独立運動をめぐり対立してきた。

■ザカエフ氏、ベレゾフスキー氏英国へ亡命

 両国に緊張関係が生まれたのは2002年、ロシアからの独立を主張するチェチェン共和国のアスラン・マスカドフ(Aslan Maskhadov)元大統領特使だったアフメド・ザカエフ(Akhmed Zakayev)氏が訪英した際。

 ザカエフ氏はロシア政府に国際指名手配され、ロンドン到着と同時に逮捕されたが、英政府は同氏の身柄引き渡し要求を検証した結果、保釈処分とした。その後ザカエフ氏は2003年に英国への政治亡命を果たし、現在は欧州各地を回っている。

 一方、第1次チェチェン戦争(1994-1996年)時にテロ行為を行ったとしてザカエフ氏を告発しているロシア政府は、これに対し怒りをあらわにしている。

 また、同様に英国亡命中のロシア人実業家ボリス・ベレゾフスキー(Boris Berezovsky)氏についても、ロシア政府は英政府を強く批判している。ベレゾフスキー氏はボリス・エリツィン(Boris Yeltsin)政権時代は政府に登用されていたが、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領就任とともに失脚。

 同氏は公金横領罪に問われて2000年に英国へ政治亡命したが、ロシアへの帰国とプーチン大統領の辞任を公に訴えている。

 ロシア政府は両者の身柄引き渡しを要求していた。

■英大使館員のスパイ疑惑

 2006年1月、両国関係はさらに複雑化した。ロシア情報当局は英国外交官4人をスパイ行為に関与したとして告発。当局によると、4人はモスクワの公園の岩に仕掛けた高度な通信システムを使用して秘密情報を収集していたという。また、英国大使館のスパイがロシアのNGOに資金提供していたとも主張した。

■リトビネンコ氏殺害事件

 対立が深まる両国の最近の争点は、元ロシア連邦保安局(FSB)アレクサンドル・リトビネンコ(Alexander Litvinenko)氏殺害事件。同氏は前年11月にロンドンで放射性物質「ポロニウム(polonium)210」により毒殺された。

 数か月にわたる捜査の結果、英検察当局は旧ソ連の国家保安委員会(KGB)元情報局員、アンドレイ・ルゴボイ(Andrei Lugovoi)氏をリトビネンコ氏殺害の容疑者と断定。英国での裁判のためロシア政府にルゴボイ氏の身柄引き渡しを要求したが、ロシア政府はこれを拒否、同国憲法および国際法により英政府の要求には応じられないとしている。(c)AFP