【5月18日 AFP】仏教国タイの中でイスラム系が多数派を占める南部では、イスラム系過激派による仏教徒系住民への攻撃が多発するなど不穏な情勢が続いている。こうした中、サッカーに対する情熱を共有することで和平につなげようという草の根の努力が実を結びつつある。

 サッカーのタイ2部リーグに属するパタニFC(Pattani FC)の練習用グラウンドでは、選手たちがパスと同じくらいの速さで冗談を交わしながら、ボールを蹴っている。世界のどこのサッカークラブでも普通に見られる光景だ。だが、ここパッターニは、これが普通ではない特殊な環境にある。

 パタニFCの本拠地は、イスラム系反政府勢力の活動の激震地にあるのだ。ここでは仏教系、イスラム系を問わず住民を狙った爆弾攻撃や銃撃が日常化しており、2004年以降これまでに5000人以上が犠牲となっている。

 ピッチ外では暴力が繰り広げられているが、パタニFCの選手たちにとって、最も大事なことはゴールを決めることだ。

 イスラム系のサマエル・サマ(Samael Sama)選手は「イスラム教徒だとか、仏教徒だとか、クリスチャンだとかは関係ない。ぼくらは皆、友人同士だ」と語る。
 
 解決不可能とも思われる南部でのイスラム系勢力との対立にタイ政府が手をこまねいている間、地元では和平への歩みが始まっていた。

 サッカーはタイ人の間でムエタイに次ぐ人気を誇るスポーツだ。しかも南部でのサッカー人気は熱狂的で、普段は分裂しがちな仏教系とイスラム系の住民たちが混ざり合う、極めて貴重な機会を提供している。「パタニの人々は、どんなに遠くに住んでいようが、(反政府勢力による)爆弾攻撃があろうが、必ずサッカーの試合を見にやってくるんだ」と、タイ北部出身で仏教徒のPisanurak Uthakang選手は話す。

■対立の構図から抜け出すために

 前年に就任したインラック・シナワット(Yingluck Shinawatra)首相は選挙運動中、政情不安が続く南部のヤラ(Yala)、パタニ(Pattani)、ナラティワート(Narathiwat)3県に自治権の拡大を約束していた。

 だが1年近くを経ても約束は果たされず、3県では2005年以来、非常事態宣言が出されたままだ。証拠がなくとも容疑者を30日間拘束できる非常事態宣言に、地元の人々は深い不満を抱いている。

 イスラム教徒が多数派の地域であるにもかかわらず、知事や軍幹部らは地域外から任命されて来た仏教徒が多いことにも、地元のイスラム系住民たちは怒りを募らせる。タイ政府はイスラム系武装勢力との和解を試みてきたが、対立から抜け出す道筋は見出せずにいる。

 インラック首相は4月下旬、南部の宗教指導者たちおよび軍高官らと会い、地域の緊張緩和のために教育と小規模事業、そしてスポーツに資金を注入すると約束したが、平和運動家たちは信用していない。「平和のための南部女性連合」を率いるHuda Longdewaaさんは「最も大きな問題は戒厳令下で軍の兵士が大量にいることです」と訴える。

■モスク訪れる兵士たち

 しかし政府が苦悩する一方で、地元による和平に向けた努力は軌道に乗りつつある。

 パタニ県のバングマ(Bangma)村では、兵士たちが1か月前から毎週、モスクを訪れ、村のイスラム教指導者と共に宗教間の対立について話し合ったり、イスラム教の基本や方言のヤウィ(Yawi)語を習う試みが続けられている。今では地元経済の問題に関する認識も共有し、高齢者へ医薬品を配布する活動も行っている。

 地元のイスラム教指導者は「イスラム教をよく知らなかった彼らが地域の伝統を学びに来て、イスラム教を理解しようとしてくれている」と述べ、試みを歓迎した。(c)AFP/Carol Isoux

【参考】パタニFCのホームページ(タイ語)