【3月29日 AFP】ローマ法王ベネディクト16世(Benedict XVI、84)はキューバ訪問の最終日となる28日、首都ハバナ(Havana)で約50万人が参加したミサを行った後、フィデル・カストロ(Fidel Castro)前国家評議会議長(85)と会談した。

 バチカン当局によると、カストロ前議長との会談は約30分にわたって行われた。高齢の前議長は黒いトレーニングウエアにチェック縞のシャツという姿で、息子で医師のアントニオ(Antonio)氏も付き添った。

 キューバ革命の象徴的存在である前議長は、世界中に12億人の信徒を持つカトリックのトップである法王に、典礼の変更点や、変化する世界における法王の責務について質問した。カストロ前議長が「私は歳をとったが、自分の義務はちゃんと果たせる」と冗談めかして言う場面もあったという。

 また、政府関係者がインターネットで公開した動画には、前議長がダリア・ソト・デル・バジュ(Dalia Soto del Valle)夫人と4人の息子を法王に紹介する様子が写っている。南北アメリカで唯一の一党独裁制の社会主義国であるキューバに対して法王が穏やかに訴え続けている変革については、会談の中で触れられなかったもようだ。

■ミサに50万人、反体制派の拘束も

 会談の前に革命広場(Revolution Square)で行われたミサにはカストロ前議長の弟、ラウル・カストロ(Raul Castro)現国家評議会議長(80)も参加した。ミサで法王は「キューバは、そして世界は変革を必要としている。だが、そのためには一人一人が真実を追究する姿勢を取り、愛の道を選び、和解と友愛の種をまかなくてはいけない」と呼びかけた。

 黄色いバチカンの旗と、青・白・赤のキューバ国旗が振られ、修道女ら数百人が歓声を上げる中、法王は「真実とは人間の欲求であり、真の自由の行使を常に前提とする探求である」と述べた。

 また、1998年から国民に信仰の自由を認めているキューバ政府をたたえながらも、キューバ人の真実の探求には「犯してはならない人間の尊厳」の尊重も含まれるべきだと語った。この発言は、開かれた政治を求める反体制派について遠回しに言及したものとみられている。反体制派の情報筋によれば、法王の訪問中にも数十人が拘束・逮捕されているという。

 人権団体「キューバ人権国民和解委員会(Cuban Commission on Human Rights and National Reconciliation)」などの電話は26日から切断されたままになっており、国際人権団体アムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)によれば、主な反体制活動家の携帯電話にも連絡がつかない状態だという。反体制派にとって残念なことに、今回の訪問中に法王と反体制指導者との会談の予定は組まれなかった。

 ベネディクト16世は28日夕(日本時間29日朝)、航空機でハバナから帰国の途に着き、ローマ法王としては14年ぶりとなるキューバ訪問を終えた。(c)AFP/Michael Langan