【4月16日 AFP】ベネズエラの故ウゴ・チャベス(Hugo Chavez)氏の遺体が永久保存・展示されることはなくなったが、熱心な支持者らの腕や脚、胸部の「司令官」はこれからも存在し続ける──タトゥー(入れ墨)の司令官として。

 3月にチャベス氏が死去して以降、ベネズエラ国内のタトゥーショップは、高まる同氏への「個人崇拝」と比例して大繁盛だ。首都カラカス(Caracas)市内のタトゥーアーティストらは、サインからそっくりな似顔絵まで、チャベス氏に関連するタトゥーを彫ってほしいとの依頼が急増していると口を揃える。
 
 チャベス氏が死去した直後、あるタトゥーアーティストのグループはカラカス市内に仮設ブースを複数開設し、「司令官」をいつまでも覚えていたいという人々に、無料でタトゥーを提供した。タトゥーアーティストの1人(39)は、「多くは来ないだろうと考えていたが、初日だけで200人以上が訪れた」と述べた。

 カリスマ性のある指導者だったチャベス氏への敬意を表する行為として、無料のタトゥーは最適だったとある女子学生は話す。21歳の華奢な女子学生は、左胸部の上から肩までのエリアにチャベス氏のサインを入れた。「チャベス氏は父親のような人。自分の身体にサインが入っているのを見たかった」と誇らしげに入れ墨を見せた。

 これまでタトゥーとは縁のなかったある主婦も、同様にチャベス氏のタトゥーを入れることを決意した。チャベス氏が死去した日に自分に言い聞かせたとし、この決意には自分自身でも驚いていると話した。

「チャベス氏のタトゥーを入れるなんて思ってもいなかった。夫が腕にタトゥーを入れて帰宅した日に泣いたことも覚えている。でも今は違う。チャベス氏はわたしの皮膚の上ばかりではなく、心の中にも存在しているの」

 ミュージシャンの夫(26)の前腕部には、子どもたちの名前を彫ったタトゥーが既にあったが、今回チャベス氏の名前が新たに加わった。この夫は、「タトゥーは一生残るものだから大きな意味を持つ」と述べ、また「チャベス氏はもう二度と現れない指導者だ」と付け加えた。

 ただチャベス氏に後継者として指名され、先の大統領選を制したニコラス・マドゥロ(Nicolas Maduro)氏のタトゥーはどうかとの質問に対しては、「ノー」と笑いながら答えた。「マドゥロ氏はまだ道半ばだよ」

 広告業界で働くある女性(31)も、左大腿部に入れたチャベス氏の顔の大きなタトゥーに誇らしげだ。元過激派戦闘員のめいに当たるこの女性は、「(タトゥーの)顔はわたしと同時に老い、しわが寄る。チャベス氏は南米に足跡を残し、わたしは身体に彼を残したの」と語った。

「(周囲からは)なぜそんなおぞましいことができるのかと言われるけど、気にしない。わたしにとっては素晴らしい『司令官』だから」

(c)AFP/Philippe Zygel