【7月10日 AFP】小ぎれいな装いに身を包んだ夫と妻は、近しい友人たちに囲まれて並んで立ち、牧師役の男性は2人に結婚指輪をハンマーで叩きつぶすよう促す。

 離婚はネガティブなことではないと語る「離婚式プランナー」、寺井広樹(Hiroki Terai)さんが執り行う「離婚式」だ。「離婚することも離婚を考えることも決してマイナスなことではないと考えている。どうせ愚痴を言い合うくらいなら、いったん2人で統括しなおして前向きな道を模索してほしい」と考えている。カップルたちは離婚式でお互いに対する不満にけじめをつけ、たいていの場合は、笑顔で式場を後にする。
 
 日本の離婚件数は、年間平均7万組程度だった1960年代以降、着実に増え、2009年にはその約4倍の25万3000組が離婚した。結婚歴や家族関係に関する社会的圧力が減り、人生をリセットしようとする人が増えていると寺井氏は言う。

 31歳独身の寺井氏は、子どもの頃から、結婚式があるのになぜ離婚式はないのか不思議に感じていた。「円満離婚はあこがれ。離婚する際には離婚式をあげたい」という。アジアで離婚率が最も高い韓国へも離婚式を進出させている。

■「最後の共同作業」で指輪を壊す

 前週、寺井氏は79組目の離婚式を手がけた。ケンジさん(38)とケイコさん(36、両者とも仮名)だ。「結婚して7年すごしてきて、紙一枚で終わるのはつまらない。離婚式をやってきっちりはっきり今までの生活に区切りをつけて、いい再スタートが切れるようにしたいと思った」と、夫のケンジさんは式の前に語った。

 一方で妻のケイコさんは対照的に、離婚式にあまり気が乗らない様子だった。「結婚の終わり」を意味する黒いドレスを着た彼女は、もうすぐ「元夫」になるケンジさんのために最後の望みをかなえてあげようと思い、式に臨んだ。

 寺井氏は離婚するカップルに黒い人力車2台を手配し、別々に乗って式場へ向かってもらう。控えめながらカラフルに飾られた民家まで、招待された友人たちが徒歩で人力車の後に続く。

 離婚式をとりおこなう寺井さんは2人を「旧郎さま」「旧婦さま」と呼び、「離婚というのは夫婦にしかわからない複雑な事情があると思います。これできれいさっぱり別れて、今日が二人にとって良い再出発の日となることを一同願っています」と語りかける。

 この後、寺井さんはケンジさんとケイコさんにハンマーを手渡し、結婚指輪を叩きつぶすように促した。2人の最後の共同作業だ。

 招待客からは拍手が湧き起こる。しかし、この締めくくりにケイコさんには、こみあげるものがあったらしい。斜に構えていたようだった雰囲気は消え、泣き出した。ケイコさんは涙を流しながらも笑顔で、「終わりかなという、ちょっとさみしくなった。やらないよりはやったほうがよかったと思う」と語った。

 寺井氏によると、離婚式でケイコさんのような反応はとても多い。それでも、「指輪をハンマーで割るところくらいから2人の表情が明るくなって、表情が切り替わって周りの人から温かい拍手が送られるというのがいつものケース」だという。

■男性のほうが未練が多い?

 また結婚を終わらせるために、離婚式という行事に頼る傾向は男性のほうが高いとも言う。「女性に関しては、終わったことに関してはすぐに気持ちが切り替えられるようだが、男性は未練が残ってしまうようだ。けじめの式が必要なんじゃないかと感じています」

 これまで寺井氏が離婚式を行ったカップルのうち、離婚を取りやめた夫婦が9組いる。ケイコさんの意外な涙にケンジさんも心を動かされた。もうすぐ「元妻」になるケイコさんを見て、ケンジさんは微笑みながら「(彼女が)まさか泣くとは思ってなかった」と述べ、「もう一回だけよく考えてみてもいいかなと思います」と語った。

 すると、「そこまではいいです」という答えが返ってきた。(c)AFP/Harumi Ozawa