【6月22日 AFP】オーストラリアで最も危険な娯楽スポーツに数えられるのがロックフィッシング(磯釣り)だが、ロックフィッシングによる水難事故死亡者の大半はアジア系住民だ。

 釣りの中でもロックフィッシングは、岩場に立って行うため危険が高い。岩に波が打ち付けていることも多い。しかし釣り人たちは、浜辺の釣りよりも大きな成果を期待して、リスクをいとわない。問題は、岩が滑りやすいことや、予測できない波が襲って来ることだ。しかも釣り人の多くは、救命胴衣その他の安全装具を何も着けていないことが多い。

 入手可能な最新の統計によると、2009~2010シーズンには、オーストラリア沿岸部の水難事故で82人が死亡した。うち4分の1がロックフィッシングによるもので、死者の大半はアジア系の人々だった。

 水難救助活動を行っているオーストラリア・サーフ・ライフセービング(Surf Lifesaving Australia)によると、アジア系ロックフィッシャーの事故多発傾向は前年から続いており、ロックフィッシングに関連した死亡事故のうち84%をアジア系が占めている。

 2009年にはニューカッスル(Newcastle)南部のキャサリンヒルベイ(Catherine Hill Bay)で、中国系5人が岩の上から波にさらわれる事故があった。5人は救命胴衣を着用しておらず、遺体は1体も見つかっていない。

 先月5月にもシドニー(Sydney)の港で、数日前から出ていた高波警告を無視した中国系の男性2人が、岩から転落して溺死する事故があったばかりだ。

■アジア系言語で危険情報を発信

「ロックフィッシング事故のピークはこれからの季節で、アジア系のコミュニティを中心に、家族の安全に注意を払うよう、喚起しているところだ」とサーフ・ライフセービングのアンソニー・ブラッドストリート(Anthony Bradstreet)氏は語る。「メッセージはシンプルだ。命を危険にさらさないように、そしてロックフィッシングをそもそもやらないように」

 サーフ・ライフセービングは事態を深刻にとらえており、釣り団体などと共にさまざまな言語のメディアで、安全啓蒙キャンペーンを行う予定だ。他にもリスクの高い対象者向けに、ロックフィッシングの安全ワークショップを開催したり、バイリンガルの指導員を育成するプログラムも始めている。

 ニューサウスウェールズ(New South Wales)州政府も、安全情報を英語だけでなく、中国語や韓国語、ベトナム語で提供し始めた。

 オーストラリア・スポーツフィッシング協会(Australian National Sportfishing Association)のスタン・コンスタンタラス(Stan Konstantaras)代表は、水難事故の死者の大半が地元住民ではなく、現地の波や潮の情報に詳しくない人たちだと指摘する。「彼らは最大1時間ほどかけて釣りをする場所までやって来る。だから天候や海の状況が悪くてもすぐには帰らない。多くの人は英語を話せず、また沿岸の潮の変化の速さを知らない。さらに、水泳が日常生活に組み込まれていない文化圏の出身者が多い。だからいったん波に飲み込まれると、大きなトラブルになってしまう」

■「新鮮な魚を手軽にとれるから」

 シドニーのベトナムタウン、カブラマッタ(Cabramatta)に暮らすベトナム人のトラン・アン・ツー(Tran Anh Tu)さんは、週末になると釣りに行く。

 マンリー(Manly)のノースヘッド(North Head)の岩場に立ち、トランさんは「新鮮な魚をとるためのリスクはいとわない」と語る。「ここに友人たちと来るのは、家に持ち帰る魚を楽に釣れるから」とトランさん。「そんなに危険だとは思わないよ。泳ぎはあんまりできないけれど、とても慎重に行動してるしね。波が高いときは釣りをしないよ」

 だが、トランさんは、波や潮の読み方は分からないと語った。それに安全具も一切身につけていない。

■これからはアフリカ系住民の事故増加?

 フィッシング協会のコンスタンタラス代表は、いまの死亡事故の大半はアジア系だが、これからはアフリカ系の事故が増えると考えている。

「トレンドのようなもの。20~30年前に豪州沿岸で溺死していたのは欧州系の移民だった。今はアジア系が大半になった。でも、アフリカ系の移民もロックフィッシングを始めている。特にビクトリア(Victoria)州でね」と、コンスタンタラス氏は語った。(c)AFP