【12月12日 AFP】中国南西部の崇州(Chongzhou)市で、夫婦が口論の末、2歳のひとり息子を残して服毒自殺を図るという事件があった。このニュースが11月に報じられたとき、この30年間推進されてきた改革・開放政策の「負の側面」があらためて浮き彫りになった。それは、中国の自殺率が今や世界最悪の水準にあるという事実だ。

 中国の年間自殺者数は25万人から30万人で、世界合計の約25%を占める。また、2分に1人が自殺している計算になる。15-34歳の死因の1位は、自殺によるものだ。

 1978年以降の改革・開放政策で、国は激変し、そこに住む13億人の心にも大きな混乱をもたらした。専門家らは、伝統的な家族のあり方が機能しなくなるとともに社会システムも崩壊し、人間関係が硬直化し、個人に相当なストレスがかかるようになっていると分析する。

 また、このわずか1世代のあいだで、中国の文化は「利益追求型」とも断言できるものに変貌した。経済的な豊かさが追求されるなか、競争社会は「一人っ子」たちにも、親の過大な期待というプレッシャーを押しつける。また、教育などの機会が増え、より多くの人が出世の階段を登りやすくなっている時代ではあるが、底知れぬ不安感でつぶれてしまう人も多い。

 地方でも変化は顕著だ。かつては3-4世代がひとつ屋根に暮らすのが当たり前だったが、今では働き手が都会に出稼ぎにゆく。子どもたちは残され、老人は顧みられなくなっていく。「経済発展で家族の絆は希薄になり、人びとはどんどん孤独になっている。精神科を訪れる患者は増え続けている」と、中国初の精神分析医、Huo Datong氏は語る。中国共産党が人びとの生活を管理し、「ゆりかごから墓場まで」面倒を見てくれていたのは、遠い過去の話だ。

■農村部、女性で高い自殺率

 中国は、女性の自殺者数の割合が全体の58%と、世界で唯一、男性の割合を上回っている。また、農村部の自殺者数が都市部を上回っているというのも、他の国の傾向とは異なっている。中国では、農村部の自殺者数は都市部を3倍から4倍上回っているという。

 農作業、親の介護、子どもの世話という三重苦を背負っている農村部の女性では、特にリスクが高い。「人々はどんどんもろくなっている。開放以後の急速な社会変化と、伝統と新しい価値観の衝突のはざまで、多くの人が精神のバランスを崩している。現在、多くの人が、経済的な豊かさを求めながらも心のバランスを取り戻そうともがいている」と、南京(Nanjing)の自殺防止ネットワークのZhang Chun会長は語る。

 中国人は、共産主義、儒教、資本主義というそれぞれ相反する価値観の中に立たされ、どれも選べずに宙ぶらりんの状況にある、と指摘する専門家もいる。

「大半が宗教心を持っている西洋とは事情が異なる」と、重慶(Chongqing)市のある心理学者は言う。「この国では、ほとんどの人、特に若者は、無宗教だ。寺にお参りに行くといっても、金持ちになれるよう願いに行くようなものだ」(c)AFP/Pascale Trouillaud