【3月7日 AFP】戦争、テロ、殺人による死が新聞の見出しをにぎわす一方、これらを上回る数の100万人以上が毎年自殺で死亡している。だが社会的には、自殺についてほとんど注意が払われていない。こうした状況に対し専門家が5日、警鐘を鳴らした。

 国際自殺予防学会(International Association for Suicide PreventionIASP)の学会長を務めるケベック大学(University of Quebec )のBrian Mishara教授(心理学)は、ここ数十年、世界的に自殺率が上昇し続けており、これを回避するためにもっと多くの資金を投入すべきだと主張した。


 世界保健機関(World Health OrganisationWHO)によると、世界の自殺率は過去50年で60%上昇している。10万人中男性28人、女性7人が自殺しており、特に途上国での増加が目立つという。

 Mishara氏は「記録に残っている人類の歴史のすべてに自殺は存在している」と語る。「大半の社会は自殺にあまり注意を払わない」とする一方で、「米国では自殺率が大幅に下がっているが、その理由は政府が自殺予防に資金を投じたからだ」と、自殺予防策に重点的に予算を投入している国では自殺率が低下していることを強調した。

「他殺より自殺が多い」と同教授は指摘しているが、自殺が暴力的殺人や事故として記録されることもあり、これが自殺があまり注意を払われない一因となっているという。

 自殺の多くは避けることができるため、とりわけ悲劇的な問題だとMishara氏は指摘する。世界的に男性の自殺率は女性より高いが、中国は例外だという。

 ウルグアイは南北アメリカで最も自殺率が高い国の1つで、10万人中男性24.5人、女性6.4人が自殺している。

 世界的にみて自殺率の高い国は旧ソ連諸国に多い。これにはアルコール飲酒が大きく関与しており、ウオツカの価格が高騰したときには自殺率が下がったという。アルコールや薬物による自殺が全体の半分を占めているという。

 WHOの統計によると、リトアニアでは10万人中男性70.1人、女性14.0人が、ロシアでは男性61.6人、女性10.7人が自殺している。

 別の要因としては、これらの国が劇的な社会変化を遂げていることがある。「変革で多くの人が恩恵を受けた一方で、取り残されたと感じている人もたくさんいる」とMishara氏は語る。「人は死にたくて死ぬのではない。未来が良くなるという希望が持てないから、自殺するのだ」(c)AFP