【10月31日 AFP】31日はハロウィーン。米国では数百万人の老若男女が仮装をする日だ。

 米国の国際スパイ博物館(International Spy Museum)は年に一度、ハロウィーンの直前に、3時間の「変装ワークショップ」を実施している。参加者は子ども限定で、参加費は28ドル(約3200円)。今回は、9歳から12歳までの43人が参加し、単なる仮装ではなく「完全に別人になりきるための変装技術」を学んだ。

 同博物館のスタッフが、「上手な変装というのは、かつらやひげを付けるだけではなく、歩き方、話し方、態度を変えるものなんだよ」と子どもたちに語りかける。ちなみに、同館のPeter Earnest館長は米中央情報局(CIA)で36年間諜報活動に携わった経験を持つ。ワシントンD.C.(Washington, DC)という立地も、こうしたワークショップにはおあつらえむきだ。
 
 9歳のアフリカ系米国人の少女(コードネーム:Dallas Drake)は、ニワトリの衣装と化粧をほどこし、背中を丸めて両手をお尻に当て、ニワトリのように歩き回る。9歳のルカ(Luca)君は、口ひげ、野球帽、サングラスといういでたち、妙なアクセントを使った話し言葉で、スパイになりきる。

 同博物館の教育担当責任者は言う。「ハロウィーンは仮装と変装の違いを教えるのに絶好の機会です。ハロウィーンで子どもは例えばドラキュラになろうとしますが、ドラキュラになるのは外見だけ。『なりきる』というのはもっと深いのです」

 ハロウィーンで仮装をする歴史は、古代ケルトのサウェン(Samhain、夏の終わりの意)の祭りにまでさかのぼる。祭りで人々は、悪霊を払うために仮装をしたと伝えられている。

 米国勢調査局(US Census Bureau)によると、米国で初めてハロウィーンが祝われたのは1921年。1930年代にはハロウィーン用の衣装や仮面が一大市場を形成するようになった。

 今日のハロウィーンでは、仮装は義務付けられてはいないものの、今年も多くの子どもたちが定番とも言えるドラキュラや魔女の扮装で「トリック・オア・トリート(Trick or treat)?(お菓子をくれないと、いたずらするよ)」と言いながら近所の家のドアを叩く光景が見られるだろう。

 ちなみにこの「トリック・オア・トリート」は、ヨーロッパのキリスト教初期の習慣から来ているとされる。11月2日の諸聖人の祝日に、キリスト教徒は「魂のケーキ」と呼ばれる干しぶどう入りの四角いパンを乞いながら村から村へと歩き、このケーキをくれた人には、亡くなった親類の魂が天国に行けるように祈ってあげたのだという。

 米国勢調査局によると、ハロウィーンにおける子どものお菓子消費量は、国民1人あたりの年間平均13キログラムにほぼ匹敵するという。

 子どもたちの多くにとって、ハロウィーンはファンタジーの世界だ。ワークショップに参加したある少女は、「私はハロウィーンの日にバレリーナになるわ」と目を輝かせた。

 この日を楽しみにしているのは子どもだけではない。大人だって特別な衣装の準備に余念がない。全国小売連盟(National Retail FederationNRF)によると、ハロウィーンの衣装代には1人あたり年間平均購買額23ドル(約2600円)以上がつぎこまれるという。

 ワシントンのある服飾店の店主は、「75ドルから150ドルの衣装が売れていきます。定番は、海賊、ネコ、ウサギ、悪魔、妖精です。ブロンドのかつらが今年大人気です」と言う。 

 ワークショップが終わり、親たちは、厚化粧とタトゥー、不良じみたヘアスタイルのわが子とご対面。みな一様にどきっとした様子だ。首にタトゥー、黒と紫のまだらのかつら、ぶかぶかしたTシャツといういでたちのわが子を前に、ある母親は声を押し出した。「息子の将来を見たみたい。こわいわ」(c)AFP/Karin Zeitvogel