【10月5日 AFP】(一部訂正)竹刀で打たれたり口の中に砂を詰められたりするのは不必要な暴力なのか、それとも伝統的な相撲界で若い弟子を鍛える方法として許されるのか。

 17歳の力士が親方にビール瓶で頭を殴られた翌日、けいこ中に倒れて死亡した事件をめぐり、日本の国技である相撲が危機に直面している。この事件で、けいこや処罰の名目で新弟子に対して行われていた行為の実態が明るみに出た。

■新弟子志願者、激減

 横綱の八百長疑惑や負傷問題の直後だけに、相撲界の新弟子獲得は一層難しくなっている。元力士「琴乃冨士」で現在でも角界との関係が深い藤沢宗義(Muneyoshi Fujisawa)さん(55)によれば、新弟子入門の話が次々に帳消しになっているという。

 今回の事件が明るみに出る以前から、力士を志す若者の数は減り続けていた。2006年に相撲協会が認定した新人力士は87人。若貴ブームで相撲人気が絶頂だった1992年の223人から60%減少した。

 元力士の藤沢さん(52)は、自分の時代でさえ、けいこは非常に厳しく、砂や塩を口の中に詰め込まれ、竹刀で何度も何度もたたかれて死ぬ思いをしたと振り返る。

 こうした行為は相撲界で「かわいがり」と呼ばれ、先輩力士が後輩を鍛えるために行っていたというが、かわいがりと虐待との境界は非常にあいまいだと、藤沢さんは言う。

■足の上で燃える新聞

 時津風(Tokitsukaze)親方は、序の口力士の斉藤俊(Takashi Saito)さん(当時17)が6月に死亡する前日、ひざと頭をビール瓶で殴ったことを認めている。また、けいこ中に先輩力士が金属バットで斉藤さんを殴ったことも認めた。警察が現在捜査を進めており、親方は角界からの追放は免れられないもようだ。

 それでも藤沢さんは、最初のころこそ先輩力士のしごきに対して憎しみを感じたが、大きな怒りや痛みのおかげで前進できたと話す。何年も後になってありがたみを感じるようになったという。

 どんなスポーツでも優秀な選手はいじめやしごきに耐えていると話す藤沢さんは、40年前、角界入りするため15歳で上京した翌日のことを、今でも昨日のことのように覚えている。旅の疲れで居眠りしていて足が燃える夢を見て、目を覚ますと本当に足の上で新聞が燃えていたという。

 しかし今ではこのようなしごきに魅力を感じる日本の若者はほとんどいない。現在の横綱2人はいずれもモンゴル出身だが、朝青龍は心の病気で8月にモンゴルに帰国した。

■才能ある若者はゴルフ界や野球界へ

 少子化とライフスタイルの変化により、相撲は「かつてない危機」に直面していると、20年にわたり相撲を追いかけているベテランジャーナリストは言う。親たちはこの恐ろしい世界に子どもを送り込みたいとは思わず、才能のある若者はゴルフ、サッカーなど別のスポーツに進むからだ。

 新人離れを食い止めるため厳しいしきたりを緩めた部屋もあるが、それでも若手は同じ部屋で寝起きしなければならない。自分の部屋とテレビ、コンピューターを持つ子どもが増える中、多くは相撲部屋での生活に入りたいとは思わない。共同部屋に住んでいじめられ、料理や雑用をさせられるのを耐えられるはずがないと、このジャーナリストは話している。(c)AFP/Miwa Suzuki