【6月4日 AFP】5月末に英国でオープンした、英国の文豪チャールズ・ディケンズ(Charles Dickens)のテーマパーク。「オリバー・ツイスト(Oliver Twist)」、「エベニーザ・スクルージ(Ebenezer Scrooge)」、「デイヴィッド・コパフィールド(David Copperfield)」など作品中の有名な登場人物が活躍するビクトリア朝時代のロンドンがよみがえる。

 英国南東部ケント(Kent)にある海軍基地の町チャタム(Chatham)は、かつてディケンズが生活し、働いた場所。テーマパーク「ディケンズ・ワールド(Dickens World)」にはビクトリア朝時代にロンドンなどの街で活躍した悪たれ小僧、バーの女給、スリなどが登場する。

 およそ6600平方メートルの敷地に一歩足を踏み入れれば、『オリバー・ツイスト』、『ピクウィック・クラブ(The Pickwick Papers)』、『二都物語(A Tale of Two Cities)』、『デイヴィッド・コパフィールド』、『クリスマス・キャロル(A Christmas Carol)』などのディケンズの世界が時間を超えて眼前に現れる。

「テーマパークの誕生は夢が実現したかのよう」と語るのはセルマ・グローブさん(71)。1902年に創設され6000人のメンバーを擁する「ディケンズ・フェローシップ(Dickens Fellowship)」の会員だ。

「テーマパークの計画を聞いたときには、最初は『なんてことを』と思ったけれど、計画の実際を知って『すばらしい』と思いました。若い世代にディケンズを楽しく紹介する方法を見つけたんですね」とAFPに語った。

 早朝から並んで入場したSably Mansoorさんは「一番乗りしたかった」と語った。 

 Mansoorさんの長女のAuniさんは『オリバー・ツイスト』のファン。7歳の誕生日のプレゼントとして連れてきてもらった。 

 総工費は6200万ポンド(約150億円)。多くのテーマパーク同様、まだ完成していないうちにオープニングを迎えた。においまで当時を再現する4Dの展示部分は6月完成の予定。

 Mansoorsさんはすでに『大いなる遺産(Great Expectations)』の展示が気に入った。

 ディケンズの時代の町並みを体験する欧州最大のボート・アトラクションは、ロンドンの下水道からはじまり、街並みをとおって、最後は住宅の屋根を空から見下ろす構成になっている。

 「一番前に乗れば、あまり水に濡れないですむ」と語るトニー・ベイツさんは、当時の衣装に身を包み、会場を歩き回ってディケンズの物語を真剣に聞き入る子供たちに話して聞かせる。

 ベイツさんは第2次大戦中の子供時代、空爆の音を聞きながら『大いなる遺産』を読んだという。ドイツの空爆より登場人物の囚人の「マグウィッチ(Magwitch)」のほうが怖かったと語る。

 ディケンズは1812年に生まれ、1870年に亡くなった。「とても劇的な物語を書いたので、登場人物がありありと目に浮かぶ」と語るグローブさんは、惨めな物語の中にも散見されるディケンズのユーモア精神について語ってくれた。

 テーマパークにはその他、「スクルージの呪われた家(Scrooge’s haunted house)」、「フェイギンの洞窟(Fagin's Den)」、「ニコラス・ニクルビー(Nicholas Nickelby)のドゥザボーイズ・ホール(Dotheboys Hall)寄宿学校」といったアトラクションがある。「寄宿学校」ではスクリーンのクイズに間違った答えをする訪問者にはちゅうちょなく叱責が加えられる。また3Dの立体映像を見ればディケンズの人生と、その時代が明らかになる。

 「ディケンズ・ワールド」は、30年前にスウェーデンのテーマパーク「サンタワールド(Santaworld)」をつくったGerry O’Sullivan-Bere氏の着想から生まれた。

 「2001年にO’Sullivan-Bere氏がやってきて、『夢を実現するために資金集めの援助をしてほしい』と頼まれた」と明かすのは現在の「ディケンズ・ワールド」責任者のケビン・クリスティー(Kevin Christie)氏。

 しかしO’Sullivan-Bere氏は昨年亡くなって、ついにテーマパーク完成を目にすることはなかった。

 「もちろん作品を読むことに優るものはない。テーマパークの役割は、読者に作品を読むように促すことにある」と語り、「現在の英国の教育カリキュラムにディケンズが含まれていないのは残念なこと」とクリスティー氏は付け加えた。

 テーマパークには開園から3日間で6000人が訪れた。

 「4月23日には訪問者が多すぎて入場を途中で打ち切らねばならなかった」とクリスティー氏。

 テーマパークは年間30万人の入場者を見込んでおり、11万人以上入れば黒字になる。入場料は大人で12.5ポンド(約3000円)。(c)AFP/Elodie Mazein