【11月7日 AFP】経験していない過去の出来事を鮮明に覚えていることが、なぜあるのか。記憶を処理する脳の領域が、誤った記憶に関わっている可能性があるとの報告が、6日発行の英医学誌「ニューロサイエンス(Neuroscience)」に発表された。

 報告論文の主執筆者で、米デューク大学医療センター(Duke University Medical Center)で神経科学を研究するRobert Cabeza氏は「今回の発見は、加齢に伴う記憶の変化に関する理解を助け、アルツハイマー病治療に突破口を開く可能性がある」と期待する。

■詳細を覚える部分と、大づかみに記憶する部分
 
 誤った記憶を強く確信する人がいることの謎を解明するため、研究チームは健康な被験者有志の脳にMRI(磁気共鳴映画像装置)スキャンを実施した。被験者は同時に記憶テストも受けた。

 記憶テストの対象となった出来事を正確に記憶していた被験者に対する脳スキャンでは、過去の出来事を処理する脳底の側頭葉内側部(medial temporal lobe、MTL)の活動が活発になったという。

 MTLは過去をより詳細に覚え、記憶をより鮮明に見せる役目をつかさどるという。朝食を例にとれば「何を食べたか、どんな味だったか、誰と一緒だったかなど細かいことまで覚える部分。詳細な記憶が加わると、記憶の真実性により確信が深まる」とCabeza氏は語る。

 一方、テストの記憶に確信を持っていたが、それが誤りだったと判明した被験者については、やはり脳底にあり、出来事の詳細を省いて一般的な意味を処理する前頭頭頂ネットワーク(front parietal network 、FPN) の活動が活発になっていた。

「人間の記憶はコンピューターのメモリとは違い、いつでも完全に正しいわけではない。起こっていないかもしれないのに、過去の出来事として強く感じることというのは、たびたびある」とCabeza氏は説明する。

 Cabeza氏は、韓国・大邸大学(Daegu University)のHongkeun Kim氏と共に、同大学と米国立衛生研究所(National Institutes of HealthNIH)の支援を受け、研究を実施した。特定の精神活動を行う際に働いている脳領域を画像化する部分では、機能的MRIを使用した。
 
 また、今回の結果やほかの研究により、年を取るにつれ人の脳では、一般的な印象を思い出す能力よりも速く、事実を思い出す能力が失われることが示されている。

「特定の記憶は永久には続かないが、特定された詳細ではなく、より一般的な印象や全体像の記憶は長持ちする」。しかし、アルツハイマー病の患者は、この両方のタイプの記憶を等しく失う傾向があるといい、この点に注目すれば、同病の早期発見の手だてになるかもしれないとCabeza氏は指摘している。(c)AFP