【10月30日 AFP】米国でエイズ(AIDS)を引き起こし、世界中にまん延させたHIVウイルスは、アフリカからハイチを経て北米大陸に入ったとする研究結果が29日、発表された。

 研究を発表したのは、米アリゾナ州ツーソン(Tucson)のアリゾナ大学(University of Arizona)のマイケル・ウォロビー(Michael Worobey)准教授(進化生物学)率いる国際研究チーム。

■ハイチ経由で米国到達か

 同准教授は「ハイチはウイルスが中央アフリカから世界にまん延する過程で、飛び石のような役割を果たした」と指摘する。

 研究によると、HIVウイルスが米国に到達したのは1969年ごろと推定され、米国でエイズ禍が本格的に拡大した1980年代より10年以上も前のことだという。ハイチからの移民が持ち込んだ可能性があるという。

「いったんウイルスが米国に入ると、爆発的に世界中にひろまった」とウォロビー准教授は語る。

 一部の科学者の間では、病原菌がハイチから持ち込まれたとの説が挙げられていたが、この研究はそれを裏付ける。ハイチは米国への移住の長い歴史を持つ西半球で最も所得水準の低い国だ。また、1930年代からHIVウイルスが定着していた中央アフリカのコンゴ(旧ザイール)では多くのハイチ人が働いていた。

 持ち込まれた時期から判断すると、ハイチで買春行為をした米国人観光客がよりも、ハイチからの移民がウイルスを持ち込んだ可能性が高いという。米国人が買春でハイチを訪れるようになったのは1970年代からであるため。

■エイズ流行開始は従来定説より10年以上前か

 さらに研究では、エイズ禍は従来考えられていた1970年代半ばではなく、1960年代に始まったと結論付けている。米国の公衆衛生当局がエイズのまん延を認識するまでの丸12年もの間、事態は放置されていたことになる。

 米国での初のエイズ感染例は、米国疾患対策予防センター(US Centers for Disease Control and Prevention)が1981年に報告した、ロサンゼルス(Los Angeles)に住む複数の同性愛の男性の例だった。

■米国から世界中にまん延

 米国でのまん延を引き起こしたウイルスは次いでカナダ、欧州、オーストラリア、日本へと広まった。

 中央アフリカでは1930年ごろ、チンパンジーからヒトに、初めて種を越えてエイズが感染した。その後、どのようにしてウイルスが中央アフリカから米国に入ったのかは、これまで明らかにされていなかった。

 謎を解くために、研究チームはハイチから米国に移住した初期のエイズ患者の血液サンプルについて3種類の遺伝子解析を行い、遺伝子系統樹を作成した。これを海外のエイズ患者の遺伝子配列と比較したところ、HIVウイルスがアフリカからハイチを経由して米国に入ったことが、99%以上の確率で確かであることが分かったという。(c)AFP