【10月8日 AFP】悪いことをした時に罰や仕返しを恐れる思考が脳のどの部分で処理されるのかを突き止めたとして、ドイツとスイスの研究グループが3日付の専門雑誌「ニューロン(Neuron)」に研究結果を発表した。利己的な性格を持つ反社会性人格障害者の行動を理解するのに役立つ可能性があるという。

 研究はドイツのウルム大学(University of Ulm)と、スイスのチューリヒ大学(University of Zurich)が共同で行った。ボランティア被験者2人を使って社会的規範にかかわる問題に対処させ、断層撮影装置を利用してその間の脳の動きを調べた。

■財産山分けの設定で実験

 実験では公正の原則が問われる課題を与え、公正さの基準から逸脱したら報いを受ける場合と、逸脱しても報いを受けない場合の反応を調査。具体的には被験者2人の共有財産を山分けするという設定で、被験者Bに分配する金額を、被験者Aに決めさせた。

 第1のシナリオでは後に被験者Bに対し、被験者Aの取り分がいくらだったかを知らせ、その金額の一部あるいは全額を使ってもいいと指示。つまり被験者Aの取り分はそれだけ減ることになる。これに対して第2のシナリオでは、被験者Bは被験者Aの決定を一方的に受け入れる立場に立ち、それに対し仕返しや罰則を加える権限は与えなかった。

■前頭葉前部皮質が反応示す

 それぞれの場合で被験者Aの脳の動きを断層撮影して調べたところ、罰則を受けるかもしれない(取り分が減るかもしれない)と知っていて決定を下す第1のシナリオでは、Aの前頭葉前部皮質が明るくなることが分かった。脳のこの部分は、公正さにかかわる問題と、罰則に関する判断を司る部分として知られている。

 興味深いことに、人物Bの代わりにコンピューターを相手にする場合には、被験者Aの頭の中で前頭葉前部皮質は目立った活動を示さなかった。

 研究はさらに、自己中心的な傾向の強い人物を被験者として使い、反応に違いがあるかどうかも調べた。その結果、こうした人物の場合は罰則の可能性に対して最も強い反応を示し、ほかの被験者に比べ脳の該当部分の働きも活発だった。

■反社会性人格障害者に機能障害の可能性

 これまでの研究で、前頭葉部分に損傷がある場合は、社会規範が理解できても正常な行動を取ることができないことが明らかになっており、今回の実験結果は反社会性人格障害者の行動を理解する一助になる可能性がある。つまり、著しく自己中心的で、基本的な社会規範を守れない反社会性人格障害の根底には、今回の実験で明らかになった頭脳部分に機能障害がある可能性が示されたという。

 また、何が社会的に許容されるのかを判断する頭脳の部分が若いうちは十分に成熟していないと考えられるため、刑法制度において、未成年者は成人とは異なる基準で扱う必要があるという主張の裏付けにもなると研究チームは指摘している。(c)AFP