【10月28日 AFP】(29日一部更新)チェコ出身の作家ミラン・クンデラ(Milan Kundera)氏は17日、同国文化省の文学賞(the 2007 Czech national prize for literature)に選ばれたが、25日に首都プラハで行われた授賞式には健康上の理由で出席を見送った。授賞式は例年、チェコスロバキアの独立記念日に当たる28日の数日前に行われてきた。賞金は30万チェコ・コルナ(約183万円)。

 クンデラ氏の受賞は、遅きに失したとの意見が聞かれる一方で、賞に値しないとの批判も入り交じる。フランス在住の同氏が出席を見送ったことから、クンデラ氏に対する評価論争が再燃した。

■主催者側も割れる評価

 バツラフ・クラウス(Vaclav Klaus)大統領やバツラフ・イェフリチュカ(Vaclav Jehlicka)文化相は式を欠席。代わりに国民的人気の高い反共産主義のジャーナリスト・政治家、故パベル・チグリト(Pavel Tigrid)氏の銘板の除幕式に出席した。

 これに対してミレク・トポラーネク(Mirek Topolanek)首相は、授賞式で発表された声明のなかで、クンデラ氏への批判について「農家の庭のような狭く偏った考え方」だと述べ、「反クンデラの批評家は、彼の1950年代に発表された共産主義の詩はこき下ろすが、スターリン主義を厳しく非難した1967年発表の小説『冗談(The Joke)』については意図的に触れることを避けている」と指摘した。

 式で放送されたスピーチでクンデラ氏は、「この受賞に大いに感激した」と述べた。

■チェコ語版少ないクンデラ作品

 国際的名声を獲得しながらもクンデラ氏の人気がチェコ国内で今ひとつ盛り上がらないのは、彼がフランス語での執筆を選択し、チェコ語による作品発表に重きを置いてこなかったことによる。

「存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)」「生は彼方に(Life is Elsewhere)」の成功の影でクンデラ氏は、チェコ共産党により2度にわたる発禁処分を受け、1968年に同国が事実上ソビエト連邦(当時)の占領下に置かれると、普通の社会生活を送ることさえ困難になった。1975年にフランスに移ったのをきっかけにフランス語での執筆を開始し、後に同国の国籍も取得した。

 代表作品の1つでチェコ語で執筆された「存在の耐えられない軽さ(The Unbearable Lightness of Being)」は、フランス語版の発表から20年以上経た2006年秋にようやくチェコ語版がプラハで発売された。

 最近の作品「緩やかさ(Slowness)」や「無知(Ignorance)」については、クンデラ氏の翻訳に対する完ぺき主義のため、チェコ語版の発売はいまだ準備段階にあるという。

 それでも批評家らは、これらの点に理解を示そうとはしない。

「チェコ語での作品発表の頻度が少ないのはクンデラ氏自身が決めたこと。フランス語や英語を理解しないチェコ人は辛抱強く待つほか道はない」とチェコの文芸誌Culture Weeklyは同氏の姿勢を批判した。(c)AFP