【5月10日 AFP】チンパンジーには自己を認識する能力があり、自らの行動が周囲の環境に及ぼす影響を予測することができるとの研究結果が、4日の学術専門誌「英国王立協会紀要(Proceedings of the Royal Society B)」に掲載された。研究結果について執筆者らは、人間と非人間との間に仮定された境界に挑戦するとともに、意識の進化上の起源に光をあてるものだと述べた。

 これまでの研究で霊長類やイルカの一部は、鏡に映る自分の姿を認識する能力があることが分かっており、これらの動物にも一定の自己認識があることが示唆されていた。だが、動物たちがどのように情報を受け取り、自己を認識しているのかについては、わかっていない部分が多い。

■自分の操作したカーソルを特定できるか

 京都大学霊長類研究所(Primate Research Institute in Kyoto)の兼子峰明(Takaaki Kaneko)氏と友永雅己(Masaki Tomonaga)准教授は、チンパンジーが特定の行動をするときに、人間と同じように「思考」をしているのかどうかを確かめるため、3つの実験を行った。

 まず、メスのチンパンジー3匹に、タッチスクリーンに触れてゲームを始めさせ、画面に映っている2つのカーソルのうちの1つを、トラックボールで操作させるという実験を行った。

 チンパンジーを妨害または混乱させるため、2つのカーソルのうちの1つには、同じチンパンジーが以前にカーソルを操作したときの動作記録を使って、その場で動いているように見せかけた。

 ゲームは、カーソルをまとに持っていくか、一定時間が過ぎると終わる。最後に、チンパンジーに自分の操作していた方のカーソルを、タッチパネルで触れさせる。正解すれば、ごほうびがもらえる、という内容だ。

 結果、3匹ともに90%以上の正解率となった。

 研究チームは、2つのカーソルの運動特性がほぼ同じだったにもかかわらず、チンパンジーは自分が操作しているカーソルを特定することが出来たと結論づけている。

■視覚情報だけで判断しているのか

 だが、この実験からは、チンパンジーが「自己の行為の主体である」ことを認識しているのか、あるいは視覚的なきっかけや手がかりを観察しているのか、判別できない。そこで研究者は第2、第3の実験を行った。

 第2の実験では2回のテストを行った。まず第1の実験と同じテストを行った。

 次に、2つのカーソルをともにトラックボールで操作できないようにして、一方にはチンパンジーの以前の動作記録を割り振り、もう一方には全く別の動きをつけた。2回目のテストでの正解は、以前の動作記録を割り振った方のカーソルとした。

 仮に1回目のテストの成績がよく、2回目のテストの成績が悪ければ、チンパンジーが視覚情報に頼っているだけでなく、そのカーソルを自分で操作しているのかどうかも考えていることになる、と研究チームは考えた。

■行動と視覚情報がズレても判断できるか

 さらに、第3の実験は、優秀なチンパンジーだけを対象に行った。

 第1の実験をベースに、トラックボールでの操作がカーソルに反映されるまでに「遅れ」が発生するようにした。さらに、トラックボールで操作した方向と、カーソルが動く方向にひねりを加えた。

 これらの実験の結果はすべて、「チンパンジーと人類が同じ基本的な認識プロセスに基づき、自らが独立した行為主体であることを知っている」ことを示すものだった。

 研究チームは、チンパンジーが、自己監視プロセスに基づいて、外部的事象における自己と他者を区分する能力があることを、行為の面から示す結果を初めて提示したと結論づけた。(c)AFP/Laurent Banguet and Marlowe Hood