【6月13日 AFP】米政府が個人の通話記録やインターネット利用情報を極秘裏に収集・分析していた事実が世界に波紋を広げる中、ゲームファンの間では主人公があらゆるハッキング技術を駆使して世界を思い通りに動かすというビデオゲームがじわじわと話題を呼んでいる。

 米カリフォルニア(California)州ロサンゼルス(Los Angeles)で開催中の世界最大級のゲーム見本市「E3」で、銃や剣などの武器を用いて敵を倒し点数を稼ぐという従来型の多数のゲーム作品に交じって出品された「ウォッチドッグ(Watch Dogs)」は、プレーヤーが主人公のアンチヒーローを操って携帯電話の通話の盗聴や通行人の医療記録の盗み見から、信号機のハイジャックまでやってのけるという内容だ。

 ゲームの舞台は米シカゴ(Chicago)。主人公のエイデン・ピアース(Aiden Pearce)は携帯電話を使って市当局の管理システムに侵入し、送電網から交通管理システム、銀行預金口座や電話網まで思いのままにハッキングする。

 当初は恋人の敵討ちを目指していたピアースだが、市当局や市民に対するハッキングを繰り返していくうちにシカゴ市の「裏の事情」を知ることになり、街を「自警」することを決意する――というのがストーリーだ。

 制作した仏ゲーム大手、ユービーアイソフト(Ubisoft)で開発を担当するカナダ人のドミニク・ゲイ(Dominic Guay)氏はAFPの取材に、「ウォッチドッグ」の扱うテーマが「タイムリーなものだと分かっていた」と語った。

 E3のために今週ロサンゼルス入りしたゲイ氏。「ホテルでテレビを付けて、最初に耳に入ったのはCNNの『プライバシーの侵害』という言葉だった。チャンネルを変えるとFOXテレビでも『監視』がどうのこうのと言っていた。思わず同僚に言ったよ。『全部、ぼくたちのキーワードじゃないか』ってね」と語った。

 ゲイ氏によれば、ゲームに登場するハッキング行為はほとんどが現実世界で起きた事件に基づいている。違いは、ゲームの中では全てを1人の人物がやっているという点だけだ。

「僕らが話している今も、実際に起きていることなんだ。ハッキングによって街をより良くしていくことはできる。違うかい?だけど、そこには脆弱性も生まれる。ゲームにはそれも盛り込んである」(ゲイ氏)

 とはいえ制作サイドには、このゲームを通じて複雑で繊細な問題について「判断」を下す意図はないという。「ハッキングに対して倫理観を示そうとしているわけではない。でも、ゲームを終えた後で、ユーザーたちが話し合うようになり、自分自身の意見を持てればいいと考えている」とゲイ氏は述べた。

「ウォッチドッグ」は11月発売予定。ソニー(Sony)の家庭用ゲーム機「プレイステーション4(PlayStation 4PS4)」と米マイクロソフト(Microsoft)の「Xbox One」向けで提供される。(c)AFP