【3月28日 AFP】膝に穴の開いたジーンズをはき、寝室が散らかっていれば親に叱られる。ニック・ダロイシオ(Nick D'Aloisio)君(17)は英国の多くの少年たちと違わない。違うのは、自作アプリを数千万ポンド(数十億円)で米インターネット検索大手ヤフー(Yahoo!)に売ったばかりだということだ。

 ヤフーは25日、ダロイシオ君の新作のモバイル用ニュース要約アプリ「サムリー(Summly)」を買収したと発表した。買収金額は公表されていないが、約2000万ポンド(約29億円)と報じられている。地球上で最も若くして自分の力で富豪になった1人にダロイシオ君は仲間入りした。

 ダロイシオ君が「サムリー」を構想したのは15歳、歴史の試験勉強をしていたときだ。それからわずか2年でダロイシオ君は、市場シェアや知的所有権について自分の3倍も年上の最高経営責任者(CEO)らと自信を持って意見交換し、世界的アーティストのオノ・ヨーコ(Yoko Ono)さんや米俳優アシュトン・カッチャー(Ashton Kutcher)さんなどから資金援助を受けるようになった。ぼさぼさ髪のロンドンの高校生はヤフーとの契約によって、「サムリー」を支えているテクノロジーが「数億人の潜在的顧客」に届いてほしいと願っている。

 ダロイシオ君がITヒーローへの道を歩み始めたのは9歳か10歳、弁護士と銀行員の両親が初めてのノートパソコンを買ってくれてからだ。独学でビデオ編集を覚え、すぐにプログラミングをするようになった。ロンドン南部の高級住宅街ウィンブルドン(Wimbledon)にある自宅で、学校が休みの日に「趣味として」アプリ開発に熱中。中にはフェイスブック(Facebook)の更新状況からユーザーのその日の気分を予想する「フェイスムード(Facemood)」というアプリなどもあった。

 大転換が起きたのは2011年、「サムリー」の前身となった「トリミット(Trimit)」というアプリを開発したときだ。このアプリは長文の報道記事をツイート程度の短文に編集するものでITブロガーらの間で好評を博し、すぐに数万回もダウンロードされた。

■投資家からのアプローチを「最初は無視」

 そこに突然、香港の富豪、李嘉誠(Li Ka-Shing)氏の代理人から連絡が来た。「ビジネスの話だった」。初めての投資家からのアプローチに始めはどうして良いか分からず無視していたが、2日後に再度連絡を受けた。「彼らは僕が15歳だということを知らなかったんだ。だからまずそれを説明しなくちゃならなかった。怖かったよ。趣味がそんなことになると思ってなかったからね。でも失うものも何もなかった。15歳だったんだから」

 李氏は30万ドル(約2800万円)を「トリミット」に投資。ダロイシオ君は米スタンフォード大(Stanford University)などの科学者たちと共に、報道記事のキーワードを抽出するアプリのアルゴリズム開発にその資金を使った。2012年11月、ダロイシオ君の17歳の誕生日に「サムリー」を発表。その後の経緯は最初に記した通りで、今後数週間にわたってロンドンのヤフーのオフィスに詰める。

 しかしダロイシオ君は、アプリ売却で得た大金を一気に使って独身貴族の館に住むといった誘惑には負けず、これからも実家に住むと言う。自分への「ご褒美」も「靴とかバッグとかその程度」だ。「大騒ぎはしないよ。車だって買えないし。だって運転免許も持ってないんだから」

「サムリー」売却について、自分よりもずっと興奮している友人たちはもうすぐ大学進学のためのAレベル試験を終える。一方、ダロイシオ君はオフィス勤務の合間にAレベルの準備をしている。オックスフォード大(Oxford University)で哲学を学びたいとも思っているし、他の企業も手がけたいし人工知能にも関心があるが、まだ長いこの先の計画で決めつけていることは何もない、と言う。(c)AFP/Katy LEE