【2月7日 AFP】マレーシア、ボルネオ島(Borneo)の熱帯雨林にチェーンソーの音がこだまする中、かつて遊牧生活を営んでいたペナン人のAjang Kiewさん(54)は、固有文化を絶やすまいと勝算の低い戦いに挑んでいる。
 
■進む近代化

 ペナン地区の環境破壊は、製材会社による材木伐採だけではない。材木運搬用に作られた道路により、森の中に古くからある集落はテレビ、ジャンクフード、新しい思想をはじめとする「近代」に接することとなった。

 今やペナン地区では衛星テレビは当たり前だ。外の世界に触れた若者たちは、自然や伝統的な生活様式に興味を失い、ポップミュージックやマクドナルド、コーラなどを嗜好するようになった。

 ペナン協会の会長としてサラワク(Sarawak)州の環境保全に取り組むKiewさんは、「もちろん学校や病院は欲しいですよ。でも、わたしたちの文化を守るためにはジャングルが必要なんです」と語る。彼の住む村では、森どころか祖先の墓まで破壊されたという。

 だが同州の大学生、ローランド・アレン(Roland Allen)さん(21)は、森にも固有文化にも興味がないという。「僕は街に住みたいし、近代的な生活を送りたい。教育は強力な武器だ。開発のためには森を犠牲にするしかない。道路も学校も病院も必要なんだ」

 アレンさんによれば、道路なしでは森に住む150人の生活は厳しく、とりわけ雨期には移動が困難になる。特に学童は、通学時に最寄りの道路まで4時間もかけて歩くという試練をかかえている。

 製材大手Samling社は新しい道路を建設する予定だが、住民たちはバリケードを築いて阻止しようとしている。

 失業して村に戻ってきたポール・ジョン(Paul John)さん(22)もアレンさんと同意見だ。「今は両親のイノシシ狩りの手伝いをしている。幸せだけど、仕事はないし、ジャングルの生活は厳しい。ペナンにも開発が必要だと思う。楽しみたいときは、街に出て酒とたばこをやるんだ」・・・村では飲酒とたばこが禁止されているからだ。

 森林保護に対するこのような若者たちの無関心に、Kiewさんは戸惑いを覚えるという。自身は伐採作業の妨害活動で3回の逮捕歴があるそうだ。

■森林破壊の現実

 AFPではKiewさんに森を案内してもらった。シカが突然目の前に現れて驚かされる場面もあった。切り倒された材木の間を歩きながら、ペナンの森に特有の様々な薬草や食用植物を紹介してもらうことができた。
 
 狩猟用の毒矢を作る際に樹液を採取する「ipo」という植物は、「伐採のために激減」しているという。

 もちろんSamling社もむやみに樹木を切っているわけではない。選択伐採を行い、外国人観光客向けのエコツアーも実施している。エコツアーのために、住民をガイドとして雇用・育成するケースもある。

 その一方で、現地女性が同社の作業員と結婚し、伐採終了後に別の土地に移動する夫との離婚を余儀なくされ、結果的に離婚率が上昇するという社会現象も生んでいる。

 ちなみにペナンの危機は1990年代、環境活動家ブルーノ・マンサー(Bruno Manser)氏の献身的な保護活動によって世界的に知られることとなったが、同氏は2000年に突然失踪した。失踪の真相は闇の中だ。(c)AFP/M. Jegathesan