【6月2日 AFP】国際社会からの圧力が強まるなかジョージ・W・ブッシュ(George W. Bush)米大統領は5月31日、「米国と他の国々は2008年中に長期的な温室効果ガス削減目標を設定する」との提案を発表した。しかし米政府の排出削減量や実行開始時期は示さなかった。

 環境問題の専門家は地球温暖化対策が主な議題となる主要国首脳会議(ハイリゲンダム・サミット、G8 Summit)直前にブッシュ大統領が提案した温室効果ガス削減の「新たな枠組み」を歓迎しつつ、懐疑的な見方を替えていない。

 サミットに出席する予定の欧州のある外交官は「ブッシュ大統領が気候変動の緊急性と温室効果ガス削減という行動基準を認識したことは前向きな成果」と評価するが、米国が国連気候変動枠組み条約(United Nations Framework Convention on Climate ChangeUNFCCC)の京都議定書(Kyoto Protocol)を批准していないことから「心配なのは、ブッシュ米大統領が交渉のための既存の枠組みを完全に無視していることだ」と続ける。

 またブッシュ米大統領の提案に法的強制力が欠如していることを指摘する専門家もいる。

 開発と環境問題を専門とする独立系のシンクタンク、ストックホルム環境研究所(Stockholm Environment Institute)オックスフォード(Oxford)支部長のトーマス・ダウニング(Thomas Downing)氏は「制裁や、法的拘束力のある目標が定められていない米国の提案は、気候政策における大躍進とは言えない」と語る。

 国連(UN)の地球温暖化をめぐる報告書の主な執筆者でもあるダウニング氏は米国の提案は「既存の気候政策プロセスと真っ向から対立するもので、国際的な交渉の場で対立を深め、混乱をまねくかもしれない」として、米国の提案がむしろ悪い影響をもたらす可能性を指摘した。

 サミット議長国ドイツ(Germany)のアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相は、ブッシュ大統領の発表を歓迎しながらも、米欧間には温暖化対策をめぐり依然として大きな隔たりがあると語る。
 
 ドイツはサミットに先立ち「今世紀中の世界的な気温上昇を摂氏2度以内に抑え、2050年までに温暖化ガスの排出量を1990年比で50%削減する」との内容を含む共同宣言案を作成したが、米国は同案の受け入れを拒否した。メルケル首相は「具体的な文言に関して言えば、我々はもっと大きな進展を実現しなければならない」と述べた。(c)AFP