【7月8日 AFP】セックス、ドラッグ、フランス政治――カーラ・ブルーニ(Carla Bruni)仏大統領夫人(40)のニューアルバムが、11日の発売を前に旋風を巻き起こしている。

 スーパーモデルから歌手へと転身したカーラ夫人の3枚目となるニューアルバム『Comme Si De Rien N'Etait』は、11日にフランス及び欧州各国で発売される。だが残念ながら、ニコラ・サルコジ(Nicolas Sarkozy)大統領との私生活については、アルバムからうかがうことはできないようだ。

■過熱する報道と過激な歌詞

 カーラ夫人については、複数のニュース雑誌が6月、特集記事を組んだ。ゴシップ記事も過熱気味に扱われ、レコード会社Naiveがアルバムのリリースを10日前倒ししたほどだ。

 ジュルナル・デュ・ディマンシュ(Journal du Dimanche)紙は6日、「羨望(せんぼう)、疑問、憶測、うわさ、空想の的だったカーラ・ブルーニのあの有名なアルバムがついに発売される」と報じた。

 パリ(Paris)大統領府エリゼ宮(Elysee Palace)近くのスタジオでレコーディングが行われたこのアルバムは、2002年のファーストアルバム『ケルカン・マ・ディ~風のうわさ(Quelqu'un m'a dit)』の軽いギターサウンドから、大きく路線変更。フランスの異端作家ミシェル・ウエルベック(Michel Houellebecq)の詩を用いた曲、ボブ・ディラン(Bob Dylan)の「ユー・ビロング・トゥ・ミー(You belong to me)」のカバー、イタリア人歌手から提供された曲以外、すべてカーラさんが書いている。フォーク色の強い前2作と違い、1960年代のポップサウンドや、ビートルズ(The Beatles)からブルーグラス、ボサノバからフラメンコまで、さまざまな音楽の要素を合わせた作品だという。。

 全14曲の中には眉をひそめるような楽曲もある。ある曲では「40歳で30人の恋人がいるけど、(わたしは)まだ子ども」と歌い、「Ma came(わたしのドラッグ)」という曲では、愛を「アフガニスタンのヘロインより強力で、コロンビアのコカインより危険」と表現し、コロンビア政府から公式な抗議を受けた。

■結婚生活については触れず

 だが、このアルバムに大統領夫妻の私生活を垣間見ることを期待する人たちは失望するかもしれない。

Ta Tienne(あなたのもの)」という、カーラさんの現在の心境を表現したかのような曲では、「男たちをよく踊らせていたわたし/そんなわたしのすべてをあなたに捧げる」「わたしを冒涜(ぼうとく)したければすればいい/わたしを非難したければすればいい/わたしは気にしない」と歌っている。

Salut Marin(こんにちは水兵さん)」という曲は2006年に亡くなった兄のバージニオ(Virginio)さんにささげた曲。アルバムタイトルも写真家だったバージニオさんの作品から取ったものだ。

■「大統領夫人」としてのアルバム

 今月行われたインタビューでカーラさんはニューアルバムについて、音楽性を取りざたされるだけではなく、大統領との結婚と同列に語られる危険性もあると思う、と語っていた。

 スーパーモデルだったカーラさんは30代半ばで歌手に転身。離婚後間もないサルコジ大統領と3か月の交際期間を経て、本年2月に結婚した。この交際期間に大統領の支持率は急低下している。

 結婚以来カーラ夫人は、公人としての大統領の印象を和らげることに貢献している、との評価を受けてきた。だがレクスプレス(L'Express)誌の調査では、国民の55%が「大統領は夫人をイメージアップに利用している」と回答している。

 ファーストレディとなったカーラさんは、警備上の理由からプロモーションツアーを行うことはできないが、発売日の11日に主要ニュース番組に出演しインタビューに答える。出演料はすべて、チャリティーに寄付されるという。

 ファーストアルバムは批評家からもリスナーからも好評で、全世界で200万枚の売上げを記録した。だが英国詩人の詩に曲を付けた2007年リリースのセカンドアルバム『ノー・プロミセズ(No Promises)』は38万枚の売上げに終わっている。

■ファーストレディとしての立場に批評家もたじたじ

 またファーストレディというカーラ夫人の新たな地位は、批評家の頭痛の種になっている。音楽専門誌「Les Inrockuptibles」の副編集長は「カーラさんについては、もう記事は書けないという記者と、優れたアルバムなんだから取り上げないのはもったいないという記者の間で議論になった」と明かした。

 現時点でのアルバムに対する全般的な評価は良いものだ。保守系のフィガロ(Figaro)紙に至っては、「芸術的に成熟した完ぺきな傑作」と評している。

 Les Inrockuptibles誌は最終的に、カーラさんにはインタビューせず、率直な記事を書くことで落ち着いた。副編集長は「彼女の立場を理由に、ニューアルバムを無視することはしたくなかった」と語った。(c)AFP