【2月26日 AFP】北朝鮮の平壌(Pyongyang)を訪問しているニューヨーク・フィルハーモニック(New York Philharmonic)のロリン・マゼール(Lorin Maazel)音楽監督らが、公演を夜に控えた26日、この前例のない「音楽外交」への意気込みや、これまでの経緯を語った。

 マーゼル氏によると、今回の公演は北朝鮮政府の招待によるもの。招待を受けた当初は「仰天し、公演を行うのが適切かどうか長い時間をかけて検討した。最終的には国務省と相談して開催を決めたが、その後も、解決すべき問題が数多くあった」という。

 その背景にはもちろん、北朝鮮と国際社会との関係や、北朝鮮が最貧国の1つである事実などがある。

 それでも、「今こそ門戸を開くべきときだと感じた北朝鮮政府の関係者のおかげで、わずかだが門が開かれた」とマーゼル氏は語り、訪朝の価値の大きさを指摘した。

 さらにマーゼル氏は「米国人には牙なんてない、米国人は芸術を愛し、自分たちの仕事に情熱を注ぐ素晴らしい人種だ。そのことを、公演をテレビで見た北朝鮮の人びとにわかってもらえるだろう」と語った。

 同氏はこれまでにも、旧ソ連、サラザール(Salazar)独裁政権下のポルトガル、チャウシェスク(Ceausescu)体制下のルーマニアといった国々で公演を行ったことがある。そうした経験から今回の公演についても、「閉鎖的な社会で演奏することには慣れている」と自信をのぞかせた。同氏によれば「そうした社会に住む人びとは、いろいろと誤解されて」おり、「自分たちの運命や生活環境を知ってほしいと願っている。理解してもらえることを、生きるよすがにしている」のだという。

 一方、ザリン・メータ(Zarin Mehta)NYフィル代表は前年、訪朝の計画に着手した際に、6か国協議の米主席代表を務めるクリストファー・ヒル(Christopher Hill)国務次官補から話があったことを明かした。

「ヒル氏は、6か国協議をよりよい状況で進める上で、西洋文化を見せることが助けになると考えたようだ。保証はないと思うが」(メータ氏)

 なお、米国で最も歴史あるNYフィルにとって1万4589回目の公演となる今回の「平壌公演」を、金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong-Il)総書記も観賞するのか―この注目の問題について、メータ氏は文科相以外の閣僚の観賞予定はわからないとした。

 公演翌日の27日には、朝鮮国立交響楽団の団員6人との共演も予定している。記者会見に臨んだマーゼル氏は、合同リハーサルは順調で、「演奏者が握手と抱擁を交わす場面があちらこちらで見られた。ぬくもりと同志愛に満ちたリハーサルで、非常に感動的だった」と語った。(c)AFP/Frank Zeller