【9月5日 AFP】胸をあらわにした上半身裸の女性たちによる過激な抗議行動で世界の注目を集めるウクライナの女性権利団体「FEMEN」の設立者は、男性だった――。これまで知られていなかった内幕を描いたドキュメンタリー映画が4日、イタリアで開催中の第70回ベネチア国際映画祭(Venice International Film Festival)で上映された。

 FEMENはこれまで、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)露大統領やイタリアのシルビオ・ベルルスコーニ(Silvio Berlusconi)元首相など、政治家や宗教団体を相手に「トップレス抗議」を展開し、メディアの注目を集めてきた。

 今回、コンペ外作品として上映されたドキュメンタリー『Ukraine Is Not a Brothel(ウクライナは売春宿じゃない)』は、オーストラリア人の女性監督キティ・グリーン(Kitty Green)氏が7か月にわたってメンバーに同行し、その生活や抗議の模様を追ったものだ。映画祭では、6人の活動家がトップレスで登場し、グリーン監督とともに写真撮影に臨んだ。

■創設者は「最低な」男性

 映画によるとFEMENは2008年、ウクライナ人男性のビクトル・スブヤツキー(Victor Svyatski)氏によって創設されたという。

 しかし、上映後にTシャツ姿でAFPの取材に応じたFEMEN現代表のインナ・シェフチェンコ(Inna Shevchenko)氏は、スブヤツキー氏は既にFEMENのメンバーではないと語った。

 フランスの新切手の肖像画モデルにもなったシェフチェンコ氏は、スブヤツキー氏の「家父長的」なやり方への反発から、グループ内に真のフェミニズム機運が呼び覚まされたと話した。スブヤツキー氏がFEMENを牛耳っていたために、多くの女性メンバーが辞めていったという。

「(スブヤツキー氏のおかげで)男たちが、いかに最低な生き物になり得るかを知ることができた。あの家父長的な世界で育ち、そこから脱したいと願うことがなければ、現在のような運動を立ち上げる勇気は湧かなかっただろう」(シェフチェンコ氏)

■当局の圧力でウクライナ脱出

 そのスブヤツキー氏は先週、ウクライナの首都キエフ(Kiev)にあるFEMEN事務所に治安当局の強制捜査が入り、銃や手りゅう弾が押収されたことに関して警察から事情聴取されたのを機に、FEMENを脱退した。

 FEMENはこれに先立って、警察から脅迫を受けたため拠点をウクライナから移すと発表している。シェフチェンコ氏も数日前にウクライナを出国したという。「安全な場所でこうして話ができてうれしい」とAFP記者に話したシェフチェンコ氏は、ウクライナの政治家と治安当局について「私たちを暴力的に攻撃しようとしている」と非難した。

 創設当初、ウクライナ正教の十字架を破壊する抗議行動で注目を集めたFEMEN。現在の本部は仏パリ(Paris)にあり、性差別など各種差別への抗議や反権力など幅広いテーマでトップレス抗議を展開している。称賛を集める一方、過激な抗議行動には強い非難もあり、そもそも運動には真の目的が伴っていないと批判されることもある。

■逮捕されつつ撮影、監督の本音は

 FEMENのドキュメンタリーを撮影するにあたり、7か月間メンバーに同行したグリーン監督は「撮影した抗議運動は100回を超える。私自身も撮影中に7、8回逮捕された」と話した。1度など、ロシアの情報当局に拉致されベラルーシから強制送還されたという。

「しまいには逮捕されることにも慣れ、落ち着いて対処できるようになったけれど、最初の頃はとても怖かった」(グリーン監督)

 また、FEMEN内部でスブヤツキー氏がどんな役割を担っていたかを知った時には、撮影を中止することも考えたという。「(撮影開始から)数か月たって、FEMENの活動の真実が見えてきた。何が行われているかや運営方法などを知り、少し失望した。女性権利を訴える人々だとは、しばらくの間まるで思えなかった」

 撮影を続けるか、それとも完全にやめてしまうか迷ったグリーン監督だが、撮影続行を決断したのはFEMENの真の姿を明らかにしようと考えたからだった。「メンバーの女性たちが、ここから前を向いて進んでいってくれることを願う」と、グリーン監督は語っている。

 一方、AFPの取材に応じたFEMENメンバーの1人、サーシャ・シェフチェンコ(Sasha Shevchenko)氏は、こう述べた。「私たちの体は、私たち自身のもの。もっと多くの女性たちに、そういうふうに生きる勇気を出してほしい。イスラム世界の女性たちにもね」 (c)AFP/Ella Ide, Sandra LACUT