【12月25日 AFP】中国語の映画で有名になりたい――。台湾映画『海角七号(Cape No. 7)』に主演し一躍有名になった日本人女優、田中千絵(Chie Tanaka、27)が、台湾でAFPのインタビューに北京語で応じ、こう語った。

 田中は女優としてのキャリアを磨くため、2年前に台湾に渡った。サミュエル・ウェイ(Wei Te-sheng、魏徳聖)監督から『海角七号』の主演に抜擢され、夢が叶った。

 この作品は台湾人男性と、田中演じる活発な日本人女性のロマンスを描く。台湾映画史上最高の興行収入を記録し、日本やハワイの映画祭でも好評を得ている。台湾版オスカーとも称される金馬賞(Golden Horse Awards)では、田中は新人賞にノミネートを果たした。

■言葉の壁を越えて

  「この役を得て本当にラッキーだった。標準中国語での演技は私にとって本当にやりがいがあった」と語った田中。語学学習に費やした期間は撮影開始までのわずか8か月間だったという。

 日本にいたままではブレイク出来なかっただろうと、田中は自分について分析する。競争の激しい日本のエンターテインメント業界で売れるチャンスはほとんどなく、海外で自分の力を試したかったが、ゼロからの再スタートというのも手ごわいと語った。

 しかし2005年、台湾のスター、ジェイ・チョウ(Jay Cho、周杰倫)主演の映画『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE(Initial D)』で脇役を得てから、田中の意識は変わった。

 日本人は仕事の間、とても真面目で神経質だが、台湾ではチョウのようなスターでさえ、気楽で親しみやすく、リラックスしていると語る田中は、そんな環境で仕事をしたいと思ったという。

 父でメーキャップ・アーティストのトニー・タナカ(Tony Tanaka)氏の、言葉の壁に関する心配をよそに台湾に渡った田中は、中国語映画には日本映画よりもっとチャンスがあり、言葉を身につければそのチャンスをつかめるはずだと直感したと語る。

■中国語映画は日本人俳優に有利

 業界の専門家によれば、中国語や中国のポップカルチャーが影響力を増す中、エンターテインメント業界でキャリアを得るため、活躍の地を台湾に移し北京語を学ぶ外国人は増えているという。

 「中国がパワーアップするにつれ、中国語の勉強が世界的に流行している。国際化され文化も多様化しているため、外国人俳優にとって台湾はとても魅力的だ」と、映画評論家のLiang Liang氏は語る。

 田中を含め9人の日本人俳優のエージェントを務めるレベッカ・チェン(Rebecca Chen)氏によれば、日台間には歴史的な結びつきがあるため、日本人俳優は台湾で有利だという。

 台湾生まれの日本人俳優、金城武(Takeshi Kaneshiro)は同地でデビューを飾り、今やアジア映画で引っ張りだこだ。

 「台湾での出演経験で田中の知名度も上がり、演技にも磨きがかかるだろう。日本に帰ってもプラスになる」とChen氏は語った。

■台湾だけでなく中国での活動も視野に

 台湾は日本の植民地だった時代があるにも関らず親日的だが、中国は違う。親日的ストーリーが反感を買い、中国本土での『海角七号』の公開は延期された。

 しかし田中は、中国で自分の可能性を伸ばすことに希望を持ち続けている。

 田中は次回、北京語のアニメーション映画で声優を務める。将来は日本人以外の役も演じてみたいと、熱意を見せた。(c)AFP