【5月18日 AFP】第61回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で17日、ボクシングの元ヘビー級世界王者マイク・タイソン(Mike Tyson)の波乱万丈の半生を描いたドキュメンタリー『Tyson』のプレミア上映にタイソン自身が登場した。記者会見ではいつもとは違う「弱気」な一面も見せた。

 映画は6月で42歳になるタイソンのボクシング人生のハイライトシーンを織り交ぜつつ、合計30時間を超えるインタビューを編集した。米ニューヨーク(New York)・ブルックリン(Brooklyn)の貧困地区で過ごした少年時代から、世界チャンピオンに登り詰めた絶頂期、その後の薬物中毒、リング上での耳噛みつき事件、有罪となったレイプ事件など、英雄からの転落の軌跡も描く。

 引退後ここ数年で体重を増し、左目の周りに刺青を入れたタイソンはこの日、米ラスベガス(Las Vegas)の自宅から多くの取り巻きとともに、映画祭の開催地である仏リビエラ(Riviera)へ到着した。

■カメラの前で素直にさせたのは監督との友情

 世界最大の映画祭でのプレミア会場は満員。記者会見で感想を聞かれたタイソンは「すごく圧倒された」と打ち明けた。「オープニングで会場に入ったときにはショックを受けた。カメラの数もすごかった。気後れしてしまって、この映画さえもう見たくないと思った」

 監督は、2005年に仏映画にリメイクされた『マッド・フィンガーズ(Fingers)』(1978)などで知られるジェームズ・トバック(James Toback)監督。タイソンを「複雑で象徴的で気高い人間」として描くことに成功したと述べた。トバック監督は1985年、ニューヨークで『ピックアップ・アーチスト(The Pick-up Artist)』を撮影中に、まだ十代だったタイソンに出会った。

 タイソンは2人の友情があったから、カメラの前で素直になれたと語った。「(コバック監督を)心から信頼しているし、優れたプロジェクトになるだろうと信じていた。自分もやるとなれば誠意を尽くしたし、彼が欲しいというものは何でも提供した」

 また自分の視点から言えば、この映画によって「声の高い舌足らずのおとなしい大男が、自分のたどってきた険しく普通でないキャリアを一から振り返る」ことができたと述べた。

■「ボクシング史における特別な地位」

 ボクシング史におけるタイソンの地位は特別だとトバック監督は語る。「さまざまな分野に、その世界を代表する象徴的な人物がいる。モハメド・アリ(Muhammad Ali)はその人柄とエンターテインメント性で抜きん出ている。しかしわたしにとって、ボクサーとして、また、闘士(ファイター)としてまず思い浮かぶのはマイク・タイソンだ」

 映画の中でタイソンはボクシングを始めたきっかけについて子どものころ、太っていた自分に対するいじめに対抗するためだったと語った。12歳で少年院に入ったときにスパーリングを始める。

 その後、タイソンが打ち砕かれた自尊心を取り戻させてくれた恩人と呼び、父親的存在とあおぐ伝説的トレーナー、カス・ダマト(Cus D'Amato)の指導を受けるようになった。長期間のトレーニングでタイソンの身体を鋼のように鍛え上げたときには、ダマトは敵を屈服させるために必要な戦術的トリックもタイソンに教え込んでいたという。「姑息なやり方はすべて学んだ。相手は試合を始める前にすでに負けていた」

 タイソンの通算成績は、50勝6敗44KO。1986年に20歳で史上最年少チャンピオンとなり、87年から90年までは37勝無敗だった。(c)AFP/Deborah Cole


カンヌ国際映画祭の公式ウェブサイト(英語)